絵葉書音楽 大陸への憧憬 その1

以前の回(絵葉書音楽序論 その2)でちょっと触れた「蘇州夜曲」がフィーチャーされた「支那の夜」という映画ですが、こちらは同名の曲のヒットから生まれた歌謡映画です。1938年、昭和13年に発表された渡辺はま子の盤がオリジナルとなります。

渡邊はま子 / 支那の夜 1938
この曲はアジア圏各国でも人気があり、各国語でも録音されています。

姚莉 / 春的夢 1943
戦後、1952年には朝鮮戦争を舞台としたアメリカ映画「One Minute To Zero (零号作戦)」の作中、ロバート・ミッチャムとアン・ブライスによって歌われるシーンもありました。また坂本九が「スキヤキ」の次にアメリカで出したシングルもこの曲でした。

坂本九 / China Nights 1963
(この手の戦後のアメリカのエキゾティカ系に分類できるものは、後から「絵葉書音楽 from U.S.A」としてでも、別項で書きたいと思います)

さて、このオリジナルのレコード「支那の夜」のカップリング曲もまた中国大陸への洋行を歌うこの曲でした。

松平 晃 / 上海航路 1938 昭和13年
この手の曲は当時「大陸歌謡」と呼ばれておりました。

服部富子 / 滿洲娘 1938年 昭和13年

岡晴夫 / 上海の花売り娘 1939 昭和14年

こういった曲の流行の背景には、1931年の満州事変、翌32年の「満州国の成立」を踏まえた国策としての「満蒙開拓移民」があったのは間違いないでしょう。(この辺りの事情については早川タダノリさんのブログのこちらの記事が詳しくて面白いです)。

また、ごく一部の戦前冒険小説好きの方であれば「馬賊」だの「大陸浪人」だのを連想されるかもしれません。文学ですと横光利一、夢野久作、久生十蘭や金子光春等の著作の一部に当時の空気が感じられます。わたしは異色の冒険少女マンガとして森川久美の「南京路に花吹雪」と「蘇州夜曲」が大好きでしたし、今も好きです。

さて、音楽へとお話を戻しましょう。この頃に「大陸歌謡」の女王といえば、渡邊はま子だと思います。

渡邊はま子 / 廣東ブルース 1939年 昭和14年

こちらは戦後の曲ですが、路線は変わっていません。

渡邉はま子 / 桑港のチャイナ街 1950年 昭和25年
敗戦5年後ですので、戦前からのファンへの一曲だったのか、またはリスナーに異国風歌謡への根強いニーズがあったのかも知れませんね(舞台をアメリカの中華街に移してまでも!)

この後も「チャイニーズエレガンス」な歌謡曲は細々と続いていくのですが、1970年代後半に、再び爆発(?)することになります。

以下次回

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