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波乱

川べりにはもはや猫がいる前提が確立してい
て 昨日通りかかった人の入った猫だまりで
恐らく死んでいた猫は夢の中では狭いところ
に挟まって生きていた よかったと思っていた
ら目覚めた

若い といっても三十は過ぎて 時折年配の
男性と食事している目撃談を聞いていた二人
は不倫をしていたとのことで 一部では有名
な話だったようだが 私は全く知らなかった
そういう知らない話を知らされることが何回も
あったが 私の話は人に知られないままだ
特にやましいところもない 別れるにあたって
揉めて やくざを名乗る第三者から揺さぶり
を受けたらしい その話で初めて関係を知った
のだ

埋立地にあった雑居ビルの中で吐き気のする
ような話を時折聞いた それとは別に 古い
野党の政治家がクラブに行ったとき 膝に手を
おいたホステスに 無礼者! と言ったという話
が好きだ あのビルで時折見かけた 後藤田
という政治家に見た目がよく似ていた 道路の
真ん中に運河があって そこにお札が海から
流れてきたそうだ どぶ川と思っていたが 水
は海水で 湾の延長ととらえるべきか

夢の中で生きていた猫に安堵した思いはポー
ズではないと言い切れるだろうか よかったと
思って迎えた朝に首から肩の凝りが激しい

海がペンキのようにエメラルドグリーンに色づき
透明度を全喪失して 荒波を立てている岸壁
に 今にも死にそうな 思い詰めた顔の取引先
の社長がセダンの中にいるのが見えた 不正
取引で契約が停止されたが 不正に加担した
上司たちはうやむやな形で難を逃れた あの
エメラルドグリーンの海は 大工場からの排水
だと思った 何台もの社用車が ぽつぽつと
海を前にして止まっていた 私の白い小型車も
含めて

おそらく何らかの理由があって港湾と港湾の
継ぎ目のところに行き止まりの水路があった
恐らく何らかの理由の操機場のような施設が
あって青い鉄塀に囲まれていた 行き止まり
にはふにゅふにゅに凹んだ短いガードレール
が錆びていた 心もとない防護だと思った

何度もそこに車を止めた 時折下車して水面
を覗いた 貝殻が年中びっしりと付いていて
空き缶が沈んだり消えたりした 風に激しく
コンクリの止めが打たれたり うって変わって
凪いでいるときもあった 魚影が見えたことは
ほとんどなかった 一度びっしりとボラの子が
群れているのを見た

私自身に特に波乱の経験はないか 水面を覗い
たり 猫の横にいたりしていて 今もしている


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