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光がうつろへ 遠征釣行2

田舎の家で出されるような薄茶色で砂糖がど
っさりはいった極甘のコーヒー色した水に浮子
頭の赤が映える 水にせり出した葦の茂みの
影が水面に差し掛かる 少し目を遠くにすれば
濃い緑の広葉樹林と竹林ばかりで 間遠に通る
車の音と 時折差しかかる航空機の連続音が
わずかに響いてくるくらいだ 妻に振り返らず
に釣ってみるか と聞くと手が汚れるんでしょ
いい と言う 何だか一人で夢のようになって
しまって斜め陽に顔を火照らせている

その後 タナゴを一尾追加したがタモロコ クチ
ボソ 筋蝦の連発に平たい魚の気配が薄れて
飽きてきたので玉網を水際に入れて回ること
にした そこでごく小さなタナゴを二匹掬って
ズボンのすそが泥はねで汚れた 泥の肌理が
細かくて墨に少しホワイトが入ったような純
粋ではない黒い色をしていた おそらく 一度
網を入れるとその振動が水中に伝わり 魚は
闇雲に泳ぎ回る そのでたらめな泳ぎを掬うの
はこの程度の網では難しいのを知っていた
50メートルほどの長さを網入れしながら歩いて
いるとうっすらと汗が湧いた その間 妻が私の
放り出した竿を取って釣り始めているのが見えた

釣れたか 釣れなかった 魚籠はと上げてみると
タナゴがニ三匹入っていた ここは流れもなく
タナゴにとっては棲みやすい環境だと思うが
人も出て来ていないように時期はやや過ぎている
色のついた雄がよりどりみどりなどと薄っすら
期待していた通りにはなりそうにもない 大きくて
あざやかなのは本沼の深い方へ移動してしま
ったのだろう それでも二時間ほどやってしめて
タナゴが十匹足らず 満足できる数を見た かた
づけをしていると背後に他人の気配を感じた

どうでしたか と土手の上から声がかかった く
らい赤と黒の大きなチェックのブルゾンを着たお
そらく私と同年配の男性だった こんな感じです
と成果を見せると おお タナゴいますね とわず
かに驚いた風に言った 人から聞いて わざわざ
遠征してきたんですよ 普段はMのあたりでやっ
てて ああ 私もたまに行きますよ あの流れの
手前の池とか そうですか いつも行くのはだ
いたいそこです こんなところでお会いするとは
あの辺りは渋いですね そうですね だから飼いた
くてここまで捕りに ここは全盛には魚が群れて
いっぱいになるんですよ やっぱり春ですか
いつの間にか男性の妻らしき女性が白い和犬
を連れて加わる そう ゴールデンウイークの
あたりは 三十分も魚籠入れれば5060は軽く
行きます え そんなに そう 網でも簡単にす
くるぐらいに魚影が濃くなってきます 冬は あ
あ 冬は駄目ですね 一匹も そうですか や
っぱり春 春ですね ここはタイリクバラタナゴ
それからマタナゴ それからヤリタナゴとかアカ
ヒレタビラ あと 天然記念物を飼ってたひとが
警察の情報を聞いて放したりしてね でも や
っぱりバラタナゴが一番きれいですね 春ですね

しかしわざわざ警察って個人の家まで摘発しに
行くものなのかね どういう情報で動くのかな
などと言いながら光の方向へ向かって車は道の
駅を目指して走った 概ね陽の差す方向に道
が続いて光がうつろへと続いてぼやけた 思えば
ホソにいたことや飛行機の遠い音もすべて夢うつつ
のように思えた バイザーを下ろして田舎道を
進んだ 思えば今日余り妻を振り返っていない
それで夢のような気がしているのかもしれない
まっすぐ前を見据えたままで昼食の相談をしな
がら車で光の方向にむかった

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