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水栽培

水栽培

仕事を辞める前の早春、実家の沈丁花が満開になり、車を出しにいくたびに清冽な香りに包まれた。

今思えば、山梨には沈丁花は無かった。人に聞いても知らないといっていた。富士山麓の春は遅いので、もし沈丁花があったとしても一月遅れて花を咲かせるだろう。

その、盛りの沈丁花をひと枝もぎって来て、水に挿しておいた。花はまもなく散り、葉ばかりとなったが葉の並びの奥から小さな新芽が出始めた。

それから夏を迎え、沈丁花は根を水の中に伸ばしている。白く、白髪のように細かくはなく、枝葉の割にはしっかりとした根だ。出窓においてある。

出窓に植物を置くとき、気になるのは土とそこに湧いてくる小虫だ。いつの間にか、小さな羽虫が目の前を行き交ったりする。

以前、店舗の管理をしていたときに、窓口の女性が蔓草を水で育てていた。ちぎってきた蔓でも水に挿しておけば枯れないで育つんですよ、と言っていた。今頃、それにならって水に草を挿している。気がよどんだ場所では枯れてしまうんですよ、とも言っていた。


今のところ、葉々は緑を保っている。私が日中、部屋にいることで気がよどんでいるという事は現状、発生していないようだ。植物が育つ不思議なジェルというのが百均においてあった。挿していた器の中身をそれに取り替えて、水を満たした。ボール状の青いジェルは膨らんで、器からはみ出してきた。インテリアとしては安っぽい趣かも知れないが、青いガラスの器に透けて見えている茎や根っこは単純にきれいだ。

単純にきれい、ということに心が落ち着いている素直さが安直でもあり、癒されているとも思える。冬を越えて、沈丁花は来春にも花をつけるだろうか。気を淀ませないように暮らしていければ。

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