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茶碗割り

実家の庭は
ほぼ八割が駐車場で
井戸のポンプとモルタルの小屋がある
水道がひかれていない頃の
名残で 井戸は洗車と水撒きに
つかう ピロリは多分この水で
感染したのだ 除去しようとしている
間に勤めを辞めてしまったので
うやむやになってしまった
父がすでに死んでいたから
生きているより辞めやすかった
いうことを聞く必要はないのだけれどいつもの
諍いになるのが嫌だった

父は口寂しさに煙草を吸って
茶を飲んだ
私は吸っていた煙草を所帯を
構えるにあたってやめ
一年中氷入りの麦茶を
飲んでいる
冷蔵庫の製氷口から
氷を口に入れるのは妻が
実家から持ってきた習慣だ
仏さまに甘茶をかける
花まつりの話を妻から聞いたが
甘茶とは砂糖を入れた
麦茶だと思っていた

父はマンションに
一度しか来なかった
どうして百メートルもないところに
マンションなど買ったのか
聞かなかった
一緒に住みたくなかったからだ
と答えがわかっていたためだろう

駐車場にしたのは
父の死後だ
植木はすっかり取り払われて
ほんの少しだけ土を残した
そこに沈丁花を植えて
父の湯のみのかけらを埋めた
絶対に掘り返さないでください
とは葬儀社の人に言われたのだったか
そのような慣例を知らなかった
あとふた株くらい
何らかの樹を植えられそうだが
怖くて掘り返せないでいる


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