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榎を見つける

野原で花を愛でながら踊るように駆けていく乙
女のような気分で酷暑の午後に農作地帯の
様々な光景を目にとめる 時折 人とすれ違う
と大抵はスポーツウェアの初老男性で 威嚇
するようにすれ違っていくのは早期退職のご
同輩か ウオーキング ランニングの人たちみ
んな何らかの患者に見えて つくづく自分の身
に引き寄せた偏見が強いと思う その 田畑の
さなかに陸屋根の一軒家がぽつんとひと家 農
転地なのかどういう経過の建物か 耕作放棄
の一角に淡くて細い雑草が長い動物の毛並み
に一面にふわっとするのを写真に撮っていたら
どす どす と打音が響き ネットにゴルフボール
を打ち込んでいる長身で細身の男が多分家主
なのだろう 回りがすべて田畑だからこのよう
な場合日当たりはなに向きというのか やはり
玄関の位置か などと思い過ごして 出来た
ばかりの築山のある公園はどうか と見えるま
まに自転車を漕いでいく

銀の軽トラが道ではないと思っていたところから
出て来て 道がある と気まぐれに曲がった
大きな鷺の飛来につられて どこを見ていたの
だろう 道の奥は一面水田となって すでに
稲穂が重さに反省の趣きでうなだれている成育
の様相で しゃがみこんで目を合わせ 稲の
フェロモンというのか 田のいい匂いが絶えず
風で流されてくる 一度でも嗅いだことがある
から懐かしい気がするのだろう 子供らにこの
匂いを嗅がせる育て方をしてきたろうかとふと
思い当たる 稲というのはきっと信仰のような物
だから とどこからともなく思い浮かんで血か 
などと代々をたどりかけ意味ない と一瞬で
やめた いい匂いと感じたのがすべて

静かさに気づいた 飛行機も飛んでいるし風も
あるが聞こえていなかった 単純な白 青 緑
そんなものしか見ていない 道路など光ってし
まってまっすぐだから進むものの 進んでもいず
れ土手に突き当たるだけできっと誰もいないだ
ろう 近頃できた まだ一カ月も経たない公園
に 小学校の裏庭にある大きな鳥籠のような
フェンスに囲まれたステンレス製の多分水を
配分するのではないかという見立ての装置が
あって 誰も見ていない中 突然装置が動き
だしたら 作動という事ではなく文字通り移動
し始めたり飛翔したらどうなるだろうかと考え
た 市長は市役所を移転して市政の歴史に
残ろうとしているけれど それに比べれば装置
の意味のない改造など公費としては微小なも
のに違いない 誰にも知られずに一度だけその
場から離れて しばらく離れたところで機械が
倒れる その時市長はもうとうに亡くなっていて
誰も彼とその出来事を結びつけることはない
死後とはそういう事でしかないのか

土手が見えれば吸われるように上る ゴルフ
場が見えてなだらかに降りる 陽光は丁度川に
反射する傾きでみれば午後四時に近い グリ
ーンを整備するコンバインのような車両がフェア
ウェイ中ほどに停まっている 運転席は光まみれ
で人がいるのかどうかわからない 光を映すつ
もりでカメラを向けた あの機械も飛ばない 蝉
のように不意に飛ぶ ゴルフ場柵際の草道を
通っていくとぱしぱしとバッタの類が草の中から
つぎつぎに飛びだしてきて少し離れた草叢に
また埋もれる

時間でなのか風のせいか 渡しはすでに終わ
っていた ロープの向こうにカブが一台停まって
いたのはまだ人が後片付けをしていたのだろ
うか そのまま延べ竿に出来そうな細竹が何本
も生えていた 葛と竹が山と盛り上がって日蔭
となる その手前の木が榎の大木であるのを
見つけた 七月 玉虫が迷い込んで 榎の葉で
飼おうとあたりを探したが それほど真面目に
探さなかったので桜の葉っぱを代わりにしても
食べることなく十日ほどで死なせてしまった 榎
を与えても食べるかどうか 無理に食べさせたり
するらしいが榎が一番餌にいいようで 葉が
所々虫食いになっているのはそういう木の葉
だということだ 樹の肌の感じで榎と判断をして
いた

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