見出し画像

取り残された町

取り残された町

私の住む駅のある沿線には、北○○、新○○、南○○といった駅が幾つかある。方角などがつかない駅は適当に栄えている。知る限りでは方角や「新」ついた駅も東京に近いところはそれなりに店などが成立しているようだ。

その中で、一つだけ開発に漏れてしまった駅がある。その駅はバブル期にいやに人気が高まった。不動産屋に勤めて数年の友人が、あの駅前は狙い目なんだよな、と言っていた。

駅前には広いロータリーがあり、そのロータリー沿いに本屋やパチンコ屋が点在していた。川があり、沼につながる。本当なら、そのロータリーに駅前ビルが建ち、マンションが林立してもおかしくなかった。しかし、そうはならなかった。化ける化けると言われながら結局その町は変わらなかった。

その町には仕事で何度か行った。駅から離れたかつての新興住宅地は少し意匠の変わった、というより当時はこじゃれたしつらえだったものが、今となっては古びて見かけない壁や窓の作りになって、それが何となく哀愁をそそる戸建て団地となっていた。

窪地を開いたそこは曇り空の天気もあってか、ひどく薄暗く感じられた。そして、ここで育った子供たちはここからあちこちへ出ていって、その親たちが年老いて静かに暮らしているのだった。

取り残された町が取り残されたままでいいのか悪いのか住人ではないから知らない。しかし、そこは遙か昔に少しだけ大切な時間をともに過ごした相手が住んでいた町だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?