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製鉄所の桜
製鉄所の桜
今はなくなってしまったが、製鉄所の桜はソメイヨシノだけではなく、白い、山桜も咲いていた。三度その開花をみた。平日は殆ど毎日、二年間は製鉄所へ通った。いろいろな手だてで仕事を進めた。ミスをすると恐ろしいことになった。土日も気が休まらなかった。製鉄所は炉を止められない。一度高炉に火を入れたら、廃炉まで火を絶やせないのだ。
夜になると電気代の安いオレンジ色の灯が灯る。その一帯がぼおっと橙に光り立つ。その中ではいろいろな建屋やパイプや鉄橋やベルトコンベヤや鉄道がしつらえられそのあちこちに人がいる。長い直線があり、見えない黒い粉や陽に光る金属粉が舞っている。そこに春、ソメイヨシノが咲く。満開になり、まもなく散っていく。そのたびにいつまでここに通うのだろう、と思った。
私が通うのは主に山桜の白く咲く赤茶の煉瓦の建屋だった。そこは私が担当をはずれた後、大幅に売却され、全く違う町になってしまった。ひとも減り、敷地も減った。高炉も一つ減ってしまった。その後、私は内勤になり、しばらく内勤畑を行くこととなった。そして、そこは別の難路だった。春になる度にあの重厚な赤煉瓦の建屋を背景に白い山桜が散っているシーンを短い動画に思い出す。
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