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都留から道志へ

都留から道志へ

山梨県都留市。至る所に水路があり、富士方面からの水が流れてくる。水流は早く、時に轟音をたてて、市役所の水車を回す。市役所の前の道から山の方へ、その道を上っていくと道志へ至る。

富士吉田市から都留市まではずっと下り坂だ。桂川という川に添いつ離れつ、両脇に山並みを見ながら下り坂を降りて、都留の町に入りばな片方の山を登るのが道志みちといわれる上り坂となる。

曲がりくねった上り坂だが、道はきちんと舗装されている。しかし、そう広い道ではない。片側一車線で杉の林を抜けていく。やはりその道沿いにも水の流れが添いつ離れつして、ところどころ水の流れる音が響いている。上ってすぐは道沿いに古い民家がぽつりぽつりと建っている。この辺は車がないと生活できないだろうと思う。

しかし、冬は雪深く、雪は車輪で道路に踏み固められて氷となり、路面を堅く覆うので、運転には慣れないとかなり厳しいと思われる。事実、冬の間は私も道志には足を踏み入れなかった。

ただ、道志は逆ルートがあり、そちらの方は都留からのルートよりも道のくねりが少ない。山中湖から道志へと上るルートだ。

私は道志に行くときには都留から入り山中湖へ抜けることが多かった。といって道志に用事があったのはほんの数度である。山道には雲がかかる。標高としては雲がかかってもおかしくない高さだ。視界が白く、前方三メートル程度のワインディングは怖い。しかし、ほとんど対向車には出くわさない。

途中、全くの山林で、樹木以外に何も無いところを過ぎる。道にはブレーキ痕が黒々と、ところどころについている。わざわざ走りに来る人がいる道だ。しかし、バイクなどで、ひとり、コースアウトしてしまったらどうなるだろう。山林には何が潜んでいるかわからない。昆虫はもちろんのこと、蛇、イノシシ、鹿、下手すれば熊に出くわさないとも限らない。幽霊よりそれらの方が怖い。

よく、こんなところに道を通したと思う。逆に、道がなかったときはどうしていたのだろうかとも思う。土地土地に歴史があり、とくに、私はその土地の明治大正昭和戦中の様相に興味がある。便利が無かった頃の暮らし。電気もろくになくどのように暮らしたのか。戦時中はどういう暮らしだったのだろう。攻撃を受けたりもしたのだろうか。

山中は夏でもひんやりとして、そんなことを思いつつも小一時間も走れば、山が途切れてくる。広い道へと降りていくとそこに道志の道の駅がある。ここは結構有名で、神奈川方面からバイクでツーリングに来る人たちが一休みするのにちょうどいいらしく、大きなバイクが何台も止まっていることが多かった。

道志川のほとりに道の駅があり、夏には水遊びが楽しめる。石くれの川に浅く流れる水流は冷たく、足を浸しているとすぐに足の裏が真っ白くなった。ごろごろした石を積み替えて小さな池を作ると、ちいさなおたまじゃくしがたくさんそこに流れ込んだ。このあたりで蛍を見ることができると聞いたが、真偽は定かではない。しかし、いかにも蛍が生息していそうな趣で、子供も安心して遊べる水辺であった。

ここはクレソンが名産で、クレソンを加工した味噌などが売られている。もちろんクレソンそのものもおいてあるが、私は野菜で、唯一苦手なのがクレソンなのだ。

それ以外はまずOKなのだが、あのくさみと苦みがどうにも馴染めない。天ぷらにでもすればまた別なのかも知れないし、名産の地でのそれはまた別物なのかも知れなかったが、私は試さずじまいだった。

あの道の駅、本当はルール違反かも知れないが車中泊などできるだろうか。行ってみて夜中、ここは車中泊禁止だから、と駐車場から追い出されたら、あの曲がりくねった坂道を下っていくのはできれば避けたい。何が出てくるかわからないし、万が一人間でも飛び出してきたら幽霊よりも恐ろしい。

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