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人を待つ

人を待つ

世界的ロボット機械の製造会社、そのコーポレートカラーはイエロー、しかも赤みを帯びた、レモンと言うより、オレンジの混合したそれで、その会社の社名を冠して、○○○○○イエロー、と言われていた。国際空港のロビーを走るカートのプレートによくその社名が、○○○○○と○○○○○イエローのプレートに広告されている。そのメーカーの下請け工場の昼休みに、そこで働く人と商用があって、踏切遮断機のようなゲートのある入り口手前で、よく待ち合わせをしたものだった。

冬、空気がぴんと張りつめて、スーツ姿の私は業務車から出るには寒く、だからとアイドリングのまま停車するのも空気を汚すのにはばかられ、エンジンを止めて温度がだんだん消えていくのを足下に感じていた。その人の来る五分ほど前になると、車外に出て、路肩に凍った雪を革靴のつま先で弄ぶのだった。

忍野、このあたりの雪は粉雪で、降り積みはとても密度のぎっしりした雪なのだが、何日か置かれるとやや溶けて、夜半の低温に再び凍り、それを繰り返して内部の密度が低下するのか、け飛ばすと軽く、そして降りたての雪のように再びさらさらの氷の粉となって辺りにきらきら舞い漂うのだった。

名前を知らない針葉樹の種類だろうか、緑色の細い木の葉に丸くて深紅の小さな実が秋口からずっと落ちずにいる。それに積雪を蹴り上げる。かすかな、ささささ、と言う音とともに辺りがしばらくきらきらしている。恋しい相手を待つのでは無かったが、昼、冷気の中で凍えながら作業着のその人が来るのを当時、仕事で待っていた。

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