見出し画像

蟷螂

蟷螂

中秋は蟷螂の季節だ。ススキの葉が枯れ始める頃、蟷螂は道ばたに迷い出てみたり、ベランダに現れる。

妻が蟷螂をタオルとともに取り込んでしまい、脱衣所で騒いでいた。

我が家のベランダには季節によっていろいろな昆虫が迷い込み、またはそこで命果てる。コガネムシ、カナブン、カブトムシ、タマムシ、カミキリムシなどの甲虫類、とかげ、蛾、野鳥、蜂、亀虫、蝉、そして蟷螂。

蟷螂の形態はユーモラスで好きだ。三角の頭を傾げて両鎌を折って構える。腹には卵が詰まっているのか、必要以上にふっくらと重そうだ。腹の上に燕尾服のような羽を畳んで、本能だろうか、防御の姿勢を見せる。それを摘んでドアから夜の暗いほうへと放り投げた。

小さい頃、さんざん虫を殺してきたので今では蟻一匹たりとも踏みたくない。しかし、小さい羽虫や蚊となれば話は別で、そのあたりの気持ちをきっちりと分析してみる必要もありそうだが、今は置いておく。

何年かに一度、蟷螂の置きみやげがベランダの壁についていることがある。雨の吹き込みにくい、揺れない、しっかりしたところに泡めいた焼き菓子のような卵を雌蟷螂が産みつけていくのだ。

その親心が吉と出るか凶と出るかは住民の心根一つだ。揺れるススキの中に目立たないように産みつけた蟷螂もベランダの蟷螂も、冬までにはその役目を終えて死んでいく。そして腹から針金虫が宿主をなくしてくねり出てくるというのだが、その様は見たことがない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?