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富士は裾野

富士は裾野

世界遺産になってから富士北麓の山梨側の富士がよくテレビに写るようになった。私は彼の地に短い間暮らしたので、テレビに知っている風景が写るたびに懐かしく思う。

富士はその雄大な中腹から山頂にかけては誰もが知るあの勇姿だが、私は本当の富士の雄大さは裾野にあると思っている。山中湖から見ると、富士の裾野が大きく広がっているのが見える。裾野は茶色く、荒涼として見える。

森林限界という物があるらしい。樹が生える限界の高さ。そのあたりを一度見るべきと彼の地の人に言われたがとうとう行かなかった。何でもまばらに低い樹がぽつりぽつりと生えたもやのかかった場所で何とも幻想的な雰囲気を醸しているらしい。樹のぎりぎりの土地。

忍野のあたりからは茶色に広がった裾野がより近く見える。その、忍野の土地も少しあがれば草木まばらに、ぽろぽろとコスモスがゆらりゆらり雑草に混ざって揺れている。地は茶色というよりカーキーに近く、夕方、そんなところに一人で居ると心底もの悲しくなったものだった。

また、今度は河口湖の方から富士の裾野を望む。富士の稜線がたんこぶのように少し盛り上がっている部分がある。これは噴火前の山の跡である。富士山はこの山の噴火により溶岩がもりあがってできたという話をやはり彼の地のことから聞いた。

こちらは山中からの富士とは違い、一面が森林で覆われて、ずっと、本栖の方まで濃い緑のもこもことした稜線が広がっている。そこには青木が原の樹海も含まれる。こちらは言うなれば生の裾野と言えるのではないか。

富士の裾野には忍野山中と河口本栖の二つの見栄えがある。そして、忍野山中に方には自衛隊の演習場がある。この演習場がある限り富士山は世界遺産にならないだろうと言っていた人がいた。時折、忍野あたりでも砲弾の発射音や着弾音が聞こえることがあった。

彼の地の人たちにはそれが日常のようだが、私あたりはやはりそんな音をきくと何事かと思ってしまう。業務のルートに駐屯地なのか訓練場なのか、自衛隊の広い敷地がフェンス越しに広がっていた。引き締まった体の隊員がよくランニングをしていた。そこで初めて、戦車を見た。モスグリーンの艶消しの車体が雨に濡れて停止していた。

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