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妻と散歩

妻と散歩

知り合いの子の油絵が市のサロンに飾られているというので散歩がてら出かけてみた。

家から街場への道は歩道が狭く、歩きなれている妻はさっさと先に行ってしまう。途中で追いかけるのをやめて自分のペースで歩く。少し広い道にでると、あの道はゆっくり歩いているとあおられることがあるから、という。私は追い越せるように端を歩くようにしているつもりなので特に問題はないと思っていたが、このあたりも世知辛くなったのか、それとも小柄な女性は見くびられるのか、平日の道では私のしらないささくれがたっているのかもしれないなどと考えた。

まずは腹ごしらえとチェーンの中華屋に入ってみた。昼まで三十分ぐらい早い時間だが結構客がいる。二人掛けの端の席に座る。そのとなりに四人掛けの席があったが遠慮した。すると男性の老人がひとりで座った。

注文品が運ばれ口を付けはじめるとどんどん席が埋まっていく。金融機関などは三十分ずれで昼をとるところが多く、銀行や証券の多い場所柄スーツ姿の男が多い。案の定隣の席は四人のうちの半分のふた席に人が座り、老人の前が空いてしまう。この事態を避けるため一人の時はカウンターに座る。私たちよりも先にきたタンメンか何かを老人は私たちが支払いを済ませてもまだ食べ続けていた。

ふと、どんぶりのそこが抜けていて次から次からタンメンがわいてきたらおもしろいななどといったら妻からなに莫迦なこといってるのと怒られて。

車検の支払いのために指認証のあるATMにいきたいと言い出したので、駅前のコンビニでいけるんじゃないか、と行ってみることにした。指認証はあったが、手数料についてはなにも書かれていない。提携銀行での取引、と出たので手数料が取られるかと思ったが結局かからずに十五万円が引き出せた。このお金はまた別のコンビニにいって入金する。ここまではまだ勤め時代の冬季一時金からのものだ。

何日か歩いていなかったので足が痛みだした。右足の膝関節だ。これからドラムセットのベースドラムを自在に踏まなければならないと思っている足なので少し不安だ。

毛糸を買わなければいけないと妻が言い出したので手芸店の入っているデパートへ行く。昔からあるが大手スーバーに近頃買収された。すっかり寂れてしまい、人出もあまりない。所々に老人が座っている。木のベンチに座って動かない。

妻が手芸店にいる間、電源コードを100均で探してみたが、見つからなかった。少しのおかずを複数種類食べたいので三つか四つにパーテーションされた皿を探してみたがこれもなかった。なかったというと手間がかからなくていいと妻が言う。作るのに。

続いて別のスーパー子供の弁当のおかずを買いにいく。そこにしか売っていない子供の好物があるという。一緒に行動するようになって少しは生活費が減ったか聞いてみるとほんのすこしそんな気もする、と返ってきた。そのかわり外食しているのだから世話はない。

いつまでこうしていられるだろうか。少し荷物になってしまったので、油絵は諦めた。実はもう一つ平日にいってみたいところが坂の上にあって、ここまですでに一時間半以上歩きっぱなしだったのでこれも諦めようかと思ったが、どっちでもいいと妻が言うのでとにかく目的の方向へと歩き始めた。

昼を過ぎ道路が光ってまぶしい。そこへは休日に散歩がてら何度も行っている。

まだ小さかった子供を連れて、ゴールデンウィークの最終日に何度か行ったことがある。そんなときには明日から始まる勤務の日常を思い描いて憂鬱になったものだ。

その憂鬱が膨らみきって退職に手を挙げてみたものの、何だか寄る辺なく気分が落ち着かない。坂を上りかけたところで、少し後悔してるかも、と妻に言ってみた。すると、本気で言ってるの? と返ってきた。非難の口調だった。そうだよな、と自分に聞かせるように妻に返した。

さんざん歩いてきたところにここにもある一応の富士見の坂はきつく感じられた。ふとベビーカーに子供を乗せていた時分が思い出されてきて私は切ない気分で登坂を進めた。


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それからもう丸4年たちます

何とかなっちゃうものです

何とかならくなったら何でもします

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