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ボタン

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恐ろしい病気がある。「選択肢が見えなくなる」という病。これはれっきとした病で、時に死以外の選択肢が見えなくなり、そうなれば当然、罹患者は死に至る。あるいは死を試みる。その結果、生き残れば重篤な後遺症を抱えたまま生き続けて、何であのとき、あのような考えしか浮かばなかったのだろう、と後悔することになるかもしれない。その後悔は終身続く。

終身続くという観念は恐ろしい。たとえそれが、幸福であったとして、一生単調な幸福しか選択肢を選択できないとしたら、ためらわずにそれを選択する事が人間にはできるのだろうか。

五百万の押しボタンがある大きな部屋を想像してみる。何故かその部屋には、屋根がついていないような気がする。晴れていれば陽光が降り注ぎ、雨ならばずぶ濡れ、夜は星空か、暗黒か、降雨か降雪か。そこで、どのボタンをどのような順番で押すと、次のボタンが点滅して。ボタンの数が余りに多くて、端の方で地味に点る青色発光ダイオードには気づかなかったりもする。

いつも片隅に押されることのないボタンが控えているが、その配列は建物の外にどのような仕組みでつながっているのか、しかし、どこにも出入り口はなく。おそらくそのような部屋が一人に一つ、または複数用意されていて、時折、すべてのボタンが点ったままになる。

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