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季節の辻褄

姉中一 弟小二 母の実家へ二人で
行き方は姉が知っている 緑の電車にのって
から 終点でローカル線に乗り換える その
6つほど行った駅が田舎の最寄り そこからさ
らにバスに乗る 途中で鬼怒川をわたって
神という字のつく地名で降りる そこからは
畑の中の道を抜けて 生垣に囲まれた農家が
ある

小豆色の電車に乗ると 終点がずっと先にな
る つい最近まで中央線では現役だったひときわ頑丈そう
で重そうな角ばった緑の電車に乗らなければならない
姉弟はいろ確かめて乗った 弟は乗る前にトイレに
いったが どこかの大人がとても長い時間の
おしっこをしていて驚いた 長じて自分も我慢の
のちにかなり長いおしっこをするようになった

そして電車は取手に止まることがなかった
常磐線快速ならば終点が取手なので関東鉄道
に乗り換えればいいのだが 同じ色で行き先が違う
本当にたまに来る 成田線我孫子支線 通称
成田線に姉弟は乗った

いつまでも取手に着かないことに不安を感じ
弟は姉に問いかける おかしいなあ と姉は
いつもののんびりした口調で答えた その口調
は今 弟の娘に引き継がれている 

姉弟は新木に降り立った 間違えたと気づいて
我孫子から路線をそれること三つ目の無人駅
だった

新木の駅には誰もいなかった 白い木で組ま
れた外国の家のような塀が駅と駅外を隔て
ていたが 同じ地面をただ便宜上分けている
に過ぎなかった 母の実家に行くのは長い
休みがある冬 夏 春 のいずれかだと思うが
とにかくよく晴れた日で 花壇に原色のひらひら
する花が咲き乱れていたのを覚えている 焦り
とか不安な気持ちは 今考えても思い出せない
少しじりじりするぐらいの日差しだったような
覚えがある 感覚的には五月くらいの印象
なのだが 今まで重ねてきた幾多の五月に
記憶がたわまされているかもしれない

弟は何かにしゃがみこんで 姉は花壇のそば
に立っていた ジブリの映画の登場人物のよう
なジャンパースカートに吊りが付いているのを
よく着ていた 心地よい風が吹いていて レール
の先に樹々の泡立つような盛り上がりが見えた
かもしれないが 長じて学校をさぼるため 何度
か終点まで乗った我孫子支線の景色と取り違え
ているような気もする

あの時の事を覚えているか 姉に聞いてみたい
気がしないでもないが 姉と夜通し話した何度
かの夜はもうかなり昔の話だ 昔は仲が悪か
ったが 姉が嫁いだ後 実家にたまに帰ると
きには音楽や映画について 語り合うように
なっていた

姉と弟は緑の 成田からくる上り電車を待って
いた 一時間に一本程度は運行していたはず
だったが 大層長く待ったように感じる 花壇に
植えられたとりどりの花は地に這うように咲いて
は無かった イメージとしてはコスモスなのだが
そうすると季節の辻褄が合わない

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