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一夏過ぎて

一夏過ぎて

一夏過ぎて本当に夏の一日らしい一日を送れたのは何日ぐらいだろうか。その、夏らしい一日には当然、快楽が含まれていなければ納得できず、ただ、暑いだけの日を過ごしたのではとうてい認定いたしかねる。まあ、自分の中でだけの決まりを偉そうに、声高に叫ぶ必要なしに。

或る夏の一日は子供たちと出かけた市民プールの日だった。わずか半日。温泉のように妻と浅いプールに浸かりながら子供たちの喜ぶ様子を見ていた。

もっと時間を巻き戻して、まだ妻と一緒になる前。大学のプールの一般開放に出かけた。三メートルほどの飛び込み台があり、いい年をしてそこから飛び降りたくて仕方がなかった。飛び込み台の下は水深が深く、底まで潜ると耳に圧がかかってきた。

或る時の夏はあまり知られていない夜間開放の公立中のプールで、日が暮れていく時間から夜まで、何度も両辺を往復した。監視員の方が多い人数、タオル地のパーカーを羽織っていた。蝙蝠飛ぶ。

どれもプールにちなむ記憶ばかり。運動嫌いの私が唯一楽しめる運動が水泳なのだが、久しく遊泳していない。

そのかわり、今年は夏の一日を小出しに日々楽しんでいる。ようやく水出しコーヒーを入れるガラス器を入手した。朝食の前後に冷たくて薄いコーヒーを飲む習慣が加わる。

その香りは狭い家にしばらく残っているらしい。買い物から帰った妻がそれを教えてくれた日があった。

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