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妻が出ている

妻が出ている

静かだ。テーブルの上には子供に作った弁当の彩りがのこっている。食べてみるとほうれん草の炒め物だった。味が濃い。息子は熱っぽい体をおして学校へ、娘は癖の付いた前髪をとても気にしながら学校へ。窓は結露に覆われ樹や電柱が水滴の向こうにかすんで見える。寒く、曇っている。出窓に、さつまいもが四五本蔓を出したまま枯れて乾いている。花が枯れた後の植木鉢の上に置いてあったものだ。ディスプレイは黒い。時間が経つと、勝手に消える。前のディスプレイはマウスを動かすと再度灯ったが、今使っているものはスイッチを入れ直さなければならない。私は、氷砂糖を口に含んでいて、しばらく口の中で右へ左へ行き交わした後、前歯でかけらをかりかりと噛む。はじめは噛む音が大きく、堅く響いてかみ砕かれるにつれ音は軽くさらさらしてくる。甘みは口の中にひろがり、しばらく口の中に留まる。部屋全体がうっすらと白く、空気が甘みを帯びている気がする。甘みは口の中の氷砂糖が鼻から抜けていて感じるのかもしれない。こうして何度か氷砂糖を噛んだ後、目をつぶり、妻の留守の音を聞いている。その間にしようとおもっていた捜し物や隠しごとの時間が過ぎていく音を聞いている。遠くに行き交う車の音の後ろに、突然くる帰宅の声を待っている。

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