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玉子巻き

玉子巻き

月に一度程度自宅で寿司を母が作った。マグロやイカなどの割合はほんの少し。そのかわり、稲荷ずしと巻きずしは結構あった。

寿司の日、平たいおひつに温かいご飯をあけて、寿司酢をぱしゃぱしゃやると酢のにおいが台所に立ちこめる。握りも母が握ったものだが私は魚介類を食べないのでその味を知らない。

そして、子供たちのために寿司を巻くのだが、我が家では玉子巻きという定番があった。海苔の代わりに薄焼玉子で寿司飯をまくというシンプルなものだ。それはふつうの巻き寿司よりやや長めに切られ、たぶん九個用意された。ほかにかっぱ巻き、かんぴょう巻き、芯に卵焼きを入れた玉子巻き寿司、おいなりさんなど。

人気の玉子巻きは姉と取り合いになった。ただ海苔の代わりに玉子を使っただけなのに、醤油皿につけると薄焼きの玉子の皺だったところによく醤油が絡んで、まずは醤油がはじめに来るのだが、そのあと玉子のふわっとした香ばしさと酢飯の酸っぱさが口の中でない交ぜに、食感軽く、次つぎにいけてしまう。

人差し指第二関節程度の長さと米の分量と巻き加減が私にはちょうどしっくりきたのだろう。そればかりたくさん作ってもらいたかった。が、卵の食べ過ぎは健康に悪いとの当時の共通認識にしたがって、その願いが叶えられることはなかった。

食べられたとしてもせいぜい12個程度くらいが限界。この巻き寿司、ほかで見たことがないのだけれど、どこの家庭でも密かに巻かれているのだろうか。

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