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印傳

印傳

平日の午後二時過ぎ、この時間が一番退屈で眠くなる。
次は四時頃。
実際この二つの時間のうちのどちらかで寝落ちしてしまうことも多い。すると三時間は起きない。どこか悪いのか。ストレスが八割方消えて、今のストレッサーはおよそ相場の善し悪しなので、こればかりは手を打つ方策は限られていて、しかし無限にあるとも言える。どのような手法を編み出すか。どのような文章を書くか、いつもなんか考えてばかりいてとても疲れる。


追い込まれて、苦し紛れに自分にとってはすばらしいことを思いついたりもするが、そのすばらしさが普遍性を持つかどうか。むしろ普遍性の対極に思いつきの喜びを感じるへそ曲がりは相場でも曲がってばかりいる。


そして、急に、印傳について書こうと思い立った。
ヤフオクで打楽器の物色をしていたら印傳のシンバルケースというのが出ていたからだ。


印傳とは鹿の革の加工品だ。鹿の革に漆を塗って模様をつけたものとネットにあった。私は山梨県の忍野八海の売店で初めて知った。甲州名物。
あ、関係ないが関東甲信越というくくり、関東、甲信、越に分けてもらえないだろうか。関東と甲信越は全く別の世界だから。


確か、何か買ったと思ったので妻に印傳ないか、と聞いてみたらキーケースがそうだった。
黒に三角筋模様が入れてあり、筋は光っている。これが漆による光なのだろう。ぱっと見ビニールの合成にも見える。これは一番安い印傳製品だからなのだろうか。財布や名刺入れなども売っていたが、それほど高くないにせよ気軽な値段とも思えない五千円から一万円ぐらいの微妙な値段が付いていた。


山梨から帰って名刺交換するときに印傳が話題になりそうだったが、そういう小技にあきあきしていた。そして、この文のために写真を撮り、裏返したら少し角がすり減って、糸が解れていた。


印傳の名誉のために言うならばあれから五年経過した後の話だ。放り投げたりポケットにねじ込んだり、それでも光沢は残っているのだから、甲州印傳、四百年の伝統は伊達でない、と取って付ける。

印傳


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