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不意

不意

疚しさなどひとかけらもなく、しかし、長年の猫背は直らず。それを指摘されたのはもうずいぶんと前のこと。何故、西の隣に東がないのか、くってかかってきた理不尽な攻撃性をそのころは好まなくなっていて、すっかり愛想を尽かしかけたとき君は、不意に姿を消してしまった。

当局からいろいろと事情を聞かれ、幽閉され、あからさまに疑ってかかってこられたのでわざと挑発的な返答を返していたら、冬はいつの間にかおわっていた。

証拠もなく、手がかりもなく、つまり何もなあんにもなかった私にはそもそも疚しさなどひとかけらもなく、しかし、不意に、猫背、と後ろから呼ばれる気がして、意識したときだけ背筋をのばして春が過ぎ、山肌に新芽がふく季節に、むせかえる青臭さが揮発する地方へと旅したことを思い出した。

そのあたりの渓谷は誰も名前を知らないどころか、透き通っているからといって清潔かどうか分からないと皆が水質を疑ってかかっていた。今となってはそういう事が一定の確率で在ることも知っているし冷たすぎて流れに手足をつけておくことまして潜ることなど一切出来もしなかった。

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