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小売業界

小売業界

遙か昔、小売業に就職した。新卒時のこと。

雑貨と食品(お菓子などの軽食)を担当した。夏のこの時期になると思い出す。クッキーが売れなかったこと。夏にクッキー。暑い中、食べたい人、あまりいない。夏にクッキー、無理。売らないと檄が飛ぶ。しかし売れない。

今のように百均なんてない時代。お菓子もそれなりに高い。コーヒーの工場に研修に行ってコーヒーの花が白いことも知った。恥ずかしながらそのとき、コーヒー豆は種だということも知った。赤い実の中に入っている種。

ただ、一度だけ、そんな中でも一日の売り上げ40万円記録したことがあった。その日も晴れた蒸し暑い日だった。午前中は何事もなく平穏に過ぎたが、午後から天気が急変した。一天俄にかき曇り、雷雨。雑貨のカテゴリーに含まれていた傘が莫迦売れした。当時ビニール傘、五百円。いつもは多めに在庫しておくのだが、発注を忘れていた。三四十本程度しかないそれらは飛ぶように売り切れ。誰が買うのこんなの、という高級傘、一本三千円とか五千円、余剰在庫。雨やまず。むしろ雨雲くらく、本降りの様相。傘売れる。高級傘飛ぶように。傘のラックから見る見る傘減っていく。二時間程度の間。品出し、品だし。傘協奏曲。ビニールの奴無いの? 済みません。売り切れちゃいました。仕方ないな、と三千円。夕方にさしかかる頃、ぴたりと雨、止む。二本、五千円の傘、残る。

その夜、集計。売り上げ、四十万。店長、何でビニール傘発注しておかないか、とにやにやしながら笑い怒り。
夏、クッキーは売れなかった。しかし運で、傘が莫迦のように売れた夏があった。

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