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桟橋

桟橋

誰がいつしつらえたのか分からないが岸から五メートルほど板を渡して、桟橋のような物が鉄パイプで組まれていた。通路から釣りのための台座に至る。二三人の釣り人がゆったりとへら鮒の竿を振っていた。野べらはそう簡単に釣れるものではない。休日、その光景を後ろから見た。水面にはさざ波が光って男たちは逆光に陰となり背を丸めていた。前傾して波に見え隠れする浮きの変化をじっと凝視していた。自転車にまたがって見ていた。別の日、有給をとってまた自転車を転がした。夏の終わり頃だったか、明らかに夏の陽光の強度は薄まり、影が涼しくなり始めていた。桟橋には誰もいない。台座まで渡ってみる。ベニヤ板は水面すれすれにあり、時折水が板をたたく音がたぷ、とした。風は岸辺より強く感じた。台座は建築用の足場で出来て思いのほかしっかりしていた。水のにおいが濃く、見た目に透き通ってこそはいないが、町中の川にしては青の純度が高く思えた。しばらく水面を見ていたが波はひとときたりとも光止まずに目が眩み、気が遠くなってきた。どのようにあの男らは僅かなあたりをとらえるのだろうか。さざ波に感覚を乱されてとても長い時間居られるような場所ではなかった。長いこと居られないと思った。勝手に作られた桟橋はおそらく河川整備の一工程として撤去され今はない。先日、あの桟橋の無い川をしばらくぶりに見た。頭の中で、鉄パイプ製の桟橋を水面に渡してみた。三つほど釣り人の残影が背中を丸めて波間に揺られた。

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