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裏庭

裏庭

ネットオークションでよく詩集を物色している。先日は吉岡実の「サフラン摘み」初版帯付を安価に手に入れた。すでに持っている本だが、詩集としてはかなり売れたようで重版の物だった。特に初版信仰でもないのだができれば初版も持っていたい。全集で読むのと、単行本で読むのとはどこかが違う。単なる趣の問題なのだが、できればそのときに編まれた単行本として読んだ方がより作品の根本に近づける気がする。その意味では松浦寿輝の「うさぎのダンス」を競り逃したのは痛かった。

とオークションパトロールをしていると私家本から歌詞集までいろいろな詩集がでているのだが、「裏庭の椿」という題の本が目に付いた。特に「裏庭」に目が止まった。

今時、裏庭のある家はどの程度現存するのだろうか。仕事で様々な家を訪ねたが都市部の家には裏庭はほとんどない。

海沿いの古民家を訪れたときは見事な裏庭があった。というか敷地が広くて、どちらが表裏とも付かず、日の当たるその場所には竹藪と朽ちた自動車があった。

本当に、何十年かぶりで思い出したのだが、小さい頃、裏庭のある家の子と友達だった。家は通りに面して立っていて、少し引っ込んだところに玄関がある。そして、玄関の横の細い通路を抜けていくと裏庭に出るのだった。裏庭は記憶ではいつも薄暗く、柿の木が何本か植わっていた。芝生などが生えていない土の庭で、崖下にあったと思う。土が湿って滑りやすかった気がする。

裏庭では友達と、その弟とで遊んだ。そしていつも私は弟と喧嘩をした。生意気な弟だった。暮らしぶりはたぶん良かったと思うが、その友達はあまり成績が良くなかった。

道路計画にかかり友達は引っ越していった。引っ越し先は集合住宅だった。一度だけ遊びに行ってそれきりだった。就職してから、思い出すこともなかったが、たまたま、「裏庭の椿」というタイトルで彼のことを思い出した。

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