朝の戯死

朝の戯死

哺乳類を
飼ったことが
ないので
その死の悲しみ
知らない

で
起き抜けに
チューブを見たら
猫が死ぬ前に
大好きな人だけに見せる
三つの兆候
っていうの
ページに並んでいた
ので見てみたという
朝

要約すると
甘える
鳴く
元気になる

という三つ

群馬に出張
尋ねた家の
玄関先で
粗い息で
犬横たわる

もう死ぬんだよ
このいぬ
寿命だよ

あばらが浮いた
水袋のような
おなか
首をもたげて
見つめてくる
死ぬ前の眼に
見えなかった

その間
ほんの十四五秒
いまわきわだけを
犬は見られた

一軒家
犬を飼っている
確率
体感70%
犬を嫌うと
吠えられる

犬猫に対して
ともに感情は
ニュートラル
来ればなでる
撫でればかわいい
毛並みに沿って
一方に
撫でる

髪の毛を
くしゃくしゃにされる
指の間に
髪をはさまれ
ゆっくりと
くしけずる

なすがままにされて
目を閉じる
気持ちいい
いくつになっても

瞳孔が
ひらくと
世界が
眩しくなる
らしい

開いて閉じて
動かなくなると
一つの判断
基準になる
死の

狩猟をする
ひとは
ヘッドショット
してやって
苦しまないように
仕留める

いつ死んだのか
気づかない死を
願って
狙う

今
このとき
まどろみに
死んでいる
二つの
死体

みつめあったまま
瞳孔を開いて
互いが
眩しい
世界を見ている

死を
まねることが
朝の
後戯

ゆっくりと
生き返り
目を閉じる
まで
死に続けて
いる