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玉主

玉主

詳しくはお問い合わせくださいと言っておきながら誰もいない。それはそうだ。こんなにも雪が積もってしまって、みんな心配して帰ってしまった。雪捨て場もすでに、行政の手には負えなくなって、だからといって用水路をこのまま雪で埋もれさせて置くわけには行かず、上流から、誰かが熱い玉を転がしてくれている。雪を溶かし用水路を流れてゆく白い玉。白といえば冷たいという概念を覆し、沸点などとうに越えた高熱を発しながらのんびりと転がってくる。触ったらひとたまりもないが雪とそのまま同じ色なのでうっかりすると犠牲者が出る。このあたりのでは年をとると、いっそ自分も一緒に転がっていこうなどと考えることもなくはないが、覚悟を秘めた人たちには玉の方が気をつけてくれていて、だからこそこの集落でしか見ることが出来ない玉はゆったりと降りてくる。上流の、山間の方が雪深いはずなのに、だれが思い当たるというのか。いったい玉の転がし主に。詳しくはお問い合わせくださいと言っておきながら誰もいない積雪のせいにしていて。

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