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絶えた家 雑木林に道とも言い難い細い筋がじぐざぐに通っている。かさかさ言う草を踏みながら分け入ると、古い、大きな瓦屋根の屋敷がある。引き戸のサッシは後から取り替えられたらしくまだ新しい。鍵を渡されて、後はご自由にといわれる。大きな家屋に不釣り合いの小さい鍵は思ったよりスムーズに回った。たたきにビニールのサンダルが一足、ハの字にぽつんと脱がれていた。この家は絶えた家だ。 係累すべてがもうこの世にいない。おおかたの家財は整理されてい
ガムの壁 ガムの壁を見たことがあるだろうか。クールミントだとか、あの、板ガム。 倉庫いっぱいのガムの壁。二トントラックで運ばれる。 私はある。 ガムの壁を作った。ほとんどコンテンポラリーアートだった。ロットを違えた。 ガムは匂う。ミントの、さわやかな匂いの暴力。目を狙う凶臭。 本当にこのロットでいいんですか。いいです。相手はいつもの問屋。無愛想な、事務員とおぼしき女性。顔も見たことない。 本当に来た。きっばりと言い放ったのは、いいです、と喧嘩腰に言ったのは、私。そして、発注