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ガンダム外伝PL.U.C. 第一話

PL.U.C.0072 サイド3ムンゾ 首相官邸

「デギン。主は変わったな。娘が生まれてからというもの、逐一私のやり方に不服を漏らすようになった。それほどこの原稿が気に食わんか」
「ええ、恐れながら、気に食いませぬとも。首相が建国、そして主権の獲得にこだわる気持ちは分かります。しかし、サイド3完成より未だ20数年、時期尚早なのは明らか。今これを流せば、望ましくない事態が起こりかねません」
「果たしてそうだろうか。我々は宇宙(天)に住む新人類。デギン、君は地球で学んだ尺度を、過信しすぎているのではないか?。彼奴等に核があるように、こちらには天の鉄槌(コロニーレーザー)がある。有識者に聞いたところ、半年で改造可能とのことだ」
「まさか……地上を焼く気ですか。最悪の場合は核戦争に、いや、人類が絶滅するまで戦いは終わりませんよ。加え、国力の差を奥の手で埋めようなど、危険極まりません」
「大事を前に、いささか悲観が過ぎるぞ。核が使えないとなれば、やりようは幾らでもある。それに、私と君、さらには君の長男も、優秀だと聞くじゃないか。若くして高級官僚を勤めているそうな。次男も豪傑、長女も容姿端麗、頭脳明晰。優秀な学者も山ほどいる。人的資源の豊富は、何よりも勝る力だ」
「しかし、余りにも道筋の不安定がすぎます。それのみか、首相、あなた自身が病を抱えていることをお忘れですか。素晴らしい言説だとしても、内政に選んではならない道ですよ」
 場が静寂に包まれた。両者が、疲れた顔を床にに下ろした。
「デギン。私の全てを果敢に支えた君が…。私の理想を追い求めた君が、どうして今更スペースノイドの独立を、国家の完成に反旗を翻すのだ」
「いいえ、首相。私は貴方の理想を共に掲げていることに、今も昔も代わりありません。ただし、私は現実を直視した過程をとりたいと、そう申し上げているのみにあります」
「私の、私の思想は、空論とでも申すか」
「恐れながら」
「もうよい。もうよいわ。少し考えさせてくれ」
「失礼いたします」

「はあ……」
 ため息が漏れる。右腕、いや、それ以上の存在が、今はあまりに怖ろしく思えた。ああ、肩が凝る。しかし、人を連れるには、まだ覚悟が足りないのかもしれない。
「お呼びですか、総裁」
「ああ。今日も折り入って相談があるのだ」
「しがない技師で宜しければ、何なりと」
「はは、冗談はよせ。君になら分かるのだろう?地球人を滅ぼす方法が」

 息の浅さが、焦りを伝えていた。ひょっとすると、私は担ぐ神輿を見誤ったのだろうか。論が洗練されているからと言って、思想家を登用するのは間違いなのかもしれない。
「選挙と政治は違うのだ。ダイクン」
 踵を鳴らしながら、はりぼての城を後にした。

PL.U.C.0073 ○月22日 教会学校敷地 キシリア邸
 サイド3首相 ジオン・ズム・ダイクンは、「栄光の道」の出版を強行。しかし、心労が祟ってか、眠るように息を引き取った。それは、店頭に並ぶ直前の出来事だった。

「キシリア様、首相が逝去されました」
「なっ、それは真か」
訃報を聞いた瞬間、脳が止まる。次の言葉を口にしようにも、探すこともままならない。
「今朝、秘書が朝食を届ける際に、発見したとのことです。死亡推定時刻は今朝の4時。目立った外傷はなく、毒殺の症状もないため、持病によるものとする診断が出ています。」
「まぁ、妥当だろうな。しかし…」
「しかし?」
「頃合の都合が良すぎる。出版が父上に知られた日と、無断で送った書籍の販売開始は?」
「前者が20日、後者は明日の開店からです」
情報の漏洩は二日前、販売が明日。流石に火を見るよりも明らかだ。
「これから数日間の父上、いや、デギン・ザビの動向を見張れ」
「はっ、親衛隊員を着かせます」
さて。本の内容と、両家の対立を知る人間は、確実に真意を悟るだろう。その中でも気を配るべきは、やはり遺族。このような好機、教会が見逃す筈がない。
「中尉、指示にあと何分だ」
「2分もいただければ」
「ふむ、たまには女らしく整えてくる。それまでに終わらせろ」 
「承知致しました」
民兵の階級とはいえ、私とて佐官だ。憧れでいなくては、上司にも部下にも示しがつかない。億劫な気持ちで、化粧箱を開けた。

故ジオン・ズム・ダイクン 前夜式

「これは、デギン長官。夫の生前にはお世話になりました」
「こちらこそ、有難い日々でした。神の平安がありますように、お祈りいたします」
「ありがとうございます」
「して、仕事の話で申し訳ないのですが。旦那様の書籍の方は、混乱の収まるまで、こちらでお引き受けしても宜しいでしょうか」
「ええ、構いませんよ。意志を継ぐ貴方なら、あの人も本望でしょう」

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