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松本隆 風街オデッセイ第二夜(後半)

ここからしばらく冨田恵一さん、冨田ラボのコーナーになります。最初に登場したのがクミコさん。横山剣さん作曲の「フローズン・ダイキリ」です。お酒飲めないはずなのに、バーの雰囲気、バーテンダーとの軽妙なやりとり、よく書けるなあ。松本さんは、小さなライヴハウスで歌っていたシャンソン歌手をたった1枚のアルバムによって、大ホールでスポットライトを浴びる大歌手に育ててしまった。そのきっかけとなったアルバムが「AURA(アウラ)」。ところで。クミコさんは東日本大震災後に「愛だの恋だのの歌が歌えなくなってしまった」と、しばらく“命の歌“ばかり歌っていた時期があった。その気持ちは痛いほど良くわかるのだが、やはりクミコさんには愛だの恋だのの歌が一番よく似合う。

冨田ラボ、続いての登場は畠山美由紀さんの歌う「罌粟」です。スクリーンにタイトルが映し出されると、後ろの方から「読めないよ(泣)」との声が。普通は“芥子“ですもんね。畠山さんは、松本さんから歌の上手さに太鼓判を押されている、特別なシンガーです。何も考えず、安心して彼女の歌に身を任せ、ただただ聴き入りました。ファルセットの艶やかな声、最高!あ、そういえばポート・オブ・ノーツのセルフカバー・アルバム、まだ買っていなかった。いかん、いかん。

冨田ラボのコーナー、どんどん行きます。ハナレグミの「眠りの森」です。ハナレグミの「家族の風景」を松本さんが気に入ったことから、それ以来なんらかの形でコラボが続き、この日を迎えました。もう20年近く経つんですねえ。この頃の松本さんの仕事はネット上でリアルタイムで拝見していたので、感慨深いものがあります。冨田さんのギタープレイも堪能できました。

さて、コーナーのラストを飾るのは、「真冬物語」。堀込泰行さん、畠山美由紀さん、ハナレグミ、見事に3人揃いましたからね。テレビで一度だけ見たことがあるけれど、今回が一期一会のつもりでありがたく鑑賞しました。歌詞の内容的には、なんとも小心者で情けない男の歌にもかかわらず、アップテンポでめちゃくちゃ明るい曲調なんですよね。レコーディングに松本さんと作曲者のユーミンが揃って立ち会ったため、冨田さんは非常に緊張したのだとか。

雰囲気が一新され、中島愛さんの「星間飛行」です。ジャケットのイラストしか知らなかったので、本人を見るのは初めて。可愛いんですね。アニメオタクの息子とは音楽の趣味が一切合わないのだけれど、唯一これだけが共通して聴ける曲。家に帰って息子に「中島愛の生歌聴いてきたぞ!」と自慢したところ、「”あい”じゃなくて”めぐみ”だから。」と返された。キラッ!

続いて登場したのが、“しょこたん“こと中川翔子さん。白いドレスと長い髪がよく似合う。耳をちょっと尖らせれば、そのまま映画「ロード・オブ・ザ・リング」にエルフの役で出られそう。彼女は常日頃、松本隆さんを「神」と断言してはばからない。歌詞が神業的とか、ネットで言うところの「ネ申降臨」「ネ申キター!」みたいな”凄い人”の比喩ではなく、本物の神だと信じているフシがある。それはこの日の「綺麗ア・ラ・モード」を歌う姿に全て表れていた。全身全霊を込める、という言葉そのとおりの熱唱、絶唱だった。彼女の瞳には武道館を埋めた一万人近い観客は映っていなかったであろう。この夜は、松本隆さんただ一人だけのために歌を捧げたのだ。ところで神様の単位って”人”でいいの?

さかいゆうさんが登場し、椅子に腰掛けて山下達郎さんの「いつか晴れた日に」を歌う。達郎さんの歌を人前で歌うには相当な度胸が必要だ。しかもこの日は作詞者の松本さんはもちろん、そうそうたるアーティストも裏で聴いているのだ。下手なパフォーマンスはできない。で、どうだったかと言うと、凄かった。完コピといいますか、原曲と寸分違わぬ完成度。見かけによらず(失礼!)やるなあ。しかし次の「SWEET MEMORIES」はもっと凄かった。キーボードの弾き語りで、これ以上溜められないほど溜める歌い方。やがて風街ばんどが加わり、大興奮絵巻が繰り広げられたのだ。この時の演奏、だれか文章にできます?私は無理。是非、WOWOWでご覧ください。ひとつだけ付け加えると、演奏が終わり、拍手の渦の中、ぺこりと頭を下げ、トコトコと去ってゆく後ろ姿が可愛すぎて、みんなずっこけたのでした。歌っている時とギャップがありすぎ!

ここで前夜と同様に風街ばんどのメンバー紹介を兼ねたインストコーナー。大瀧メロディーのメドレーです。(確か、さかいさんの後だったと記憶していますが、違っていたらごめんなさい。)昨日のレポで言及していなかった吉川忠英さんのギター、「雨のウェンズデイ」の主旋律を少しだけ弾いたんだけど、泣けるほどの美しさ。ギターが上手いっていうのは、早弾きとか難しいフレーズが弾けるってことではなくて、美しい音が奏でられることなんだと再認識しました。それにしても今回のライヴのバンドスコアは一体どうなっているのでしょうね。全部まとめたバンマスの井上鑑さんのご苦労たるや、いかほどのものか。髪もあんなに真っ白になってしまって。(それは元々?)

「September」、凄い演奏の狭間で、一服の清涼剤のようでした。竹内まりやさんのオリジナルバージョンでコーラスを担当したEPOさんが歌いました。ポピュラーミュージックの鑑です。若かりし頃はとんがった音楽に傾倒していて、例えばカーペンターズのような音楽をバカにしていたのでした。愚かでした。老若男女、性別を問わず広く受け入れられるものと、平凡なものとの区別がつかなかったのだなあ。この「September 」という楽曲、ポップスの王道中の王道、ミドル・オブ・ザ・ロードです。

ゲストミュージシャンのトリを務めたのは吉田美奈子さん。「瑠璃色の地球」です。泣いている人、たくさんいたはずです。美奈子さんのライヴに行くと、一曲終わるたびにため息が漏れる。“やれやれ“のため息ではなく、呼吸することさえ忘れて聴き入ってしまうから。それ程の緊張を伴う。大袈裟ではなく、この一曲で人生観が変わった人もいたかもしれません。続けざまに「ガラスの林檎」が来ましたよ。45周年の時に観客の度肝を抜いた、疾走するアレです。超高速ピッチで髙水健司さんのベースが走る走る!これも説明不可能につき、WOWOWをご覧ください。45周年のブルーレイの方が先に出るかな。

というわけでゲストミュージシャンの歌が全て終了し、今夜もはっぴいタイムです。演奏曲目は昨日と同じく「花いちもんめ」からスタート。ん?なんか変だと思っていたら、茂さんが演奏を中断。どうやらチューニングを間違えていたみたい。またひとつ、伝説が生まれました。ありがたや。ジャズの帝王マイルス・デイヴィスなんて、出だしを間違えたテイクが珍重されてレコードにそのまま残されているもの。後年になって、「あの時、オープンGをオープンDにチューニングしてたんだってさ。(※)」「へ〜。」なんて会話が交わされていることでしょう。(※内容はテキトーです。真偽の程は分かりません。)やり直した演奏はライヴならではの臨場感たっぷりの申し分ないものでした。

2曲目の「12月の雨の日」、初日は曽我部恵一さんが歌ったのですが、この日はいません。誰が歌うのかと思ったら、茂さんが「鈴木慶一さんが歌います!」と。うわ〜、ホントですか?すげーっ、夢ですか?とはいうものの、一抹の不安がよぎる。えーと、慶一さんのヴォーカルは個性的というか、独特というか、知らない人が初めて聴くと「ひょっとして下手なんじゃないの?」と思われる危険性があるのだ。ムーンライダーズのファンはその辺も含めて大好きなんですが。特にナサケナイ男の歌なんか歌ったら右に出るものなしの絶品ですよ。などと言い訳を考えていると、慶一さんが間髪入れず「大瀧さん、ごめんね。冥土の土産だと思って許して!」と言ったので、会場が一気に和みムードになったのでした。そして見事に歌いきりました。はぁ〜、緊張したなあ。というかこの作品、慶一さんのヴォーカルスタイルに合っているかも。ソロライヴの時にカバーしていただきたい。

そして二日間を締めくくる本当にラストのラスト、「風をあつめて」です。今夜も茂さんがベースを担当します。松本さんのドラムを叩く姿を目に焼き付けておかなくては。ただ、スクリーンの映像がほんのわずか、実際の演奏とズレるんですね。少しだけ遅れる。ドラムだとそれが顕著になるので、そっちはあまり見ないようにする。この曲、サビの明快さからシンプルな曲と思われているかもしれないけれど、歌も演奏もなかなかの難曲です。休符の入れ方が独特なんですよね。細野さんと松本さん、二人でスタジオにこもって録音したとのことで、そもそもライヴ演奏することを前提に作られていない。もちろんベースを弾きながら歌えないし、ギターを弾きながらも難しい。ドラムも全編通して同じパターンで叩いている箇所がほとんどない。松本さん、この日のために相当練習を積んだのではないでしょうか。初日は細野さんが歌で間違えちゃったし、結局2日間通してノーミスだったのはずっとドラムから離れていた松本さんだけ、という結果に。演奏を全て終え、出演者全員ステージ上に集まったところで、細野さんから松本さんへの一言。「ドラム、なかなか上手いね。今度、一緒にバンドやらない?」また新たな伝説がスタートする予感。

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