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【創作怪談】コイン

 学生時代の友人Sと久々に会うことになった。
彼とは学生時代さほど親しかったというわけではないが。同じく学生時代からの付き合いのNと仲がよく、卒業後にNを介して親しくなり、2人でもたまに会っては遊ぶ、というような関係になっていた。
 お互いにオカルトものが好きという共通点があるのも手伝って、会えばそういった話になることもめずらしくなかった、とはいえSはやや霊には否定的に見ているので、心霊写真や呪われた物品といったものもあまり信じてはいないようだった。
 そういった類のものについて語っていても、興味や知識は豊富なものの立ち位置としては懐疑的で、どこか冷ややかだった。
 
 そんなSが「面白いものを見つけたぞ」と言ってみせてきたものがある。
海外旅行へ行ったSの親戚からの土産物だというコインだった。どこかの国の硬貨なのかと思ったが、そうではないらしい。単に土産物としてコイン型に作られているだけのものだそう。
 ぱっと見土産物のコインでしかないが、Sは目を輝かせて
「これもらってから、明らかにおかしなことばっかり起こるんだよ」
と最近彼の身に起きたという出来事のいくつかを話してくれた。
部屋でラップ音が毎夜の如く鳴る。
チャイムがなったがドアの前には誰もいない。
外に出れば誰もいないはずのところでも誰かの声が聞こえてくる。
帰ってくると部屋の小物の配置が変わっている。などと言ったものだ。
 個別個別で行けばほとんどが気のせいか、泥棒やストーカーと言った他の原因を思い浮かべるところだが、それらが複合して常に起こっている。という。
「俺も自分がおかしくなっちまったんじゃないかと、半分は疑ってたんだけどな」
試しにコインをわざと何処かに落としてきたことがあったそうだ。
出かけた用事のついでに思い立ち、藪の中に放り投げてきた。
 すると、これまで起きていた異変というのはパッタリとおさまった。
やはりあのコインが原因だったのか。と薄寒くも、どこか晴れ晴れとした気持ちで、土産にくれた親戚への言い訳を考えながら郵便受けをチェックすると、DMやチラシに混じって、薄汚れた茶封筒が入っていた。
 恐る恐る中を開けると手紙が入っていて、それを開いてみて彼は驚愕する、あのコインが貼り付けてあった。
手紙の内容は「どこそこのあたりでこのコインを拾いました、多分あなたのものだと思うので返します」というものだった。怪奇現象も再び起こるようになった。
「ありがちだろ」
とSは自嘲するかのように笑う。
以後も何度かコインを捨てては現象が止み、数日後になんらかの手段で帰ってくるのを繰り返した。
「そんでしばらく考えたんだけどさ、これ、きちんと誰かにあげるもらうをしないと、その人のところに帰ってきちゃうんだよな」
じゃなきゃあの親戚や、そもそも売ってた店に帰って行くはずだもんな。と彼は言う。
「そう言うことだからさ、このコイン、もらってくんない?」
と言う彼の爛々とした目と張り付いたような笑顔、普段のSが送る懐疑的な立場や視線といったものとは明らかに違う、異様な気迫に押されてコインを受け取ってしまった。
 彼からはいたく感謝されたものの、俺の身には特に何も起きていない。
それでもSの身に起こる怪奇現象は止んでいるようなので、俺はすぐにコインを第三者にあげたと言うことにして自室で保管している。

 現在Sは以前のオカルトに対しての興味知識はあるものの懐疑的という立ち位置に戻り、俺やNの仕入れてきた話に対しても冷ややかなコメントを残してくる。
 しかしあのコインの話題になると、彼の口調に熱がこもり
「あれだけは俺が見てきたものの中で本物って言える。あれだけは間違いない。今どこにあるんだろうな。どっかで同じ思いをしてるやつがいるんだろうか」
と早口でまくし立てるのだ。

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