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【創作怪談】事故物件

 もう十数年前になるが、とある事件でニュースを賑わせたマンションが実家の近所にある。名前をKマンションという
子供の頃の通学路というのがその前を通る道だったので、ある日の帰りに規制線が張られていた、あの黄色いテープの強烈な黄色を今でも覚えている。
 あれ以来、おそらくそういった建物の例に漏れず、マンションには幽霊の目撃談が噂されるようになっていた。
 現役で住民もいるマンションで、管理もされているので肝試しスポットになっているというような事はないが、少し調べれば詳しい事件が出てくるような事故物件であるのも影響しているのだと思う。
噂というのは事件の舞台となった部屋で怪現象が起こるというものや、その部屋のある廊下で被害者の霊が目撃されるというものだった。

 これはそのマンションに住むことになった友人、Nが語ってくれたものだ。
高校を卒業後東京の大学に通っていた彼は、大学卒業後に地元の企業に就職した。
大学生活の間に一人暮らしに馴染んでいたので、地元に帰っても独り暮らしを継続することを選んだのだ。
その際、不謹慎なことではあるが大きな事件のあった事故物件で幽霊の噂もあるそのKマンションに住むことに決めたのだそう。

 帰省した際にそのNと会うことになった。
不謹慎ながらもKマンションでの霊の目撃談にも興味があったのでマンション内の彼の居室での面会を希望したのだが、やんわりと断られてしまった。
 駅前の居酒屋で飲みながら事故物件への未練を口にすると彼は、実は…と語り始めた。
彼の部屋は夕食時の2時間ほど、女性の叫び声のような音が鳴り響くらしいのだ。
 それは入居初日から起きており、初めて聞いた時に慌てて玄関から飛び出ると、玄関の外は静かなものだった、不思議に思い部屋に戻るとやはり叫び声がけたたましく響いている
 彼はマンションの部屋を逃げ出し、同じ地元の友人Sに助けを求めた。
気のせいだろと笑われて部屋に戻ると、確かに音は鳴っていなかった。気のせいとはとても思えなかったが、実際に静かであるし、たまたまだろうと思いその日は過ごした。
 翌日も同じ時間に叫び声が聞こえた。やはり気のせいではなかった、またSに報告すると驚きつつも
「しょうがないだろ、そういう物件って知ってて入ったんだし」
これにはぐうの音も出ず、音が鳴るのは夕食どきの2時間ほど、それ以外は普通の部屋だし、新たに引っ越しするのも正直手間だし金銭的にも不都合だと思った彼は、音が響く時間だけ外出して過ごすことにして、その部屋での生活を継続することにした。
しかし、もうすぐ契約更新の時期だが、更新はしないという。
「少し前に熱出して寝込んだんだけど、外出出来なかったからさ、あの時ばかりはおかしくなるんじゃないかと思った」
とNは苦笑していた。続けて
「でも、俺の部屋事件の現場じゃないらしいんだよね、犯人も被害者も男だったしさ。家賃安いのは納得したけど、誰のなんの声なんだろうな。あれ」
とも語っていた。


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