部屋の白い壁

から“白さ”が逃げ出してしまったので白い壁は暗黒の壁になってしまった。暗黒の壁は光を吸収するので照明の光度を大きく上げなければならず光熱費が嵩み、生活苦となった。これは新しい犯罪のスタイルで、白い壁から白さを逃して光熱費を増大させることによって利益を得ようとする電力会社の悪辣な手口だった。我々はインターネット上で団結し、インターネットを駆使して電力会社を糾弾し、この犯罪行為を中止させることに成功はしたが、遂に壁から逃げ出した白さを取り戻すことには至らなかった。

逃げ出した白さ達は行く宛もないのでネカフェで夜を明かし、公園で夜を明かし、格安の民泊で夜を明かすなどをして人生(人生?)を曖昧に消費していた。元来壁に宿り壁に在るだけがアイデンティティの全てだったので、特にやりたいこともなかったし、かといって壁に戻りたいとも思わなかった。ただ漠然とした焦燥感だけは人間並みに揃えていたので何者かにならなくてはという観念に押されていた。何者かにならなくてはならないという観念は「正しい人生」という怪物になり、牙を剥き暴れ出したので白さ達は不本意ながら立ち向かわざるを得ないということになり、団結することにした。

団結し合体した白さ達は一つの莫大な白さとなり、一つの世界となった。この莫大な白さは現在東シナ海上で曖昧に揺蕩っているので、興味があるならボートを出して見に行くといい。


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