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不動産投資において“節税”は、あくまで付随効果と捉えるべき

(全裸不動産 全裸幡随院)

不動産投資のウェブサイトや広告を通じて目にしたり、あるいは収益不動産販売のセールスパーソンから「不動産投資は節税になります!」という売り文句を何度も見たり聞いたりした経験が少なからずあるという人は多いかもしれません。それを“”節税“と呼べるかどうかはともかく、その時々の稼得利益の圧縮手段として不動産が利用されることはよく耳にすると思われます。実際、不動産を利用した”節税“対策なるものを講じて満足いく結果を得た人もいれば、思っていたのとは違うと戸惑いを覚えたという人もいます。

そこで、不動産に絡むいわゆる“節税スキーム”とされているものが、本当に節税になっているのだろうかと改めて考えてみると、少なくとも、よく言われる減価償却や損益通算を絡めた“節税”は、実質的に節税になっておらず、経費計上の時期をずらせるということを単に言い換えただけのように思いますし、損益通算にしても、別に損益通算できる対象は不動産取引に限りませんから、不動産特有の“節税スキーム”という程のものではないことがわかります。

かつては、海外の中古不動産を取得し、減価償却における簡便法によって短い耐用年数を利用することで、高い減価償却費を計上して節税を図るということがなされていましたが、これは2020年の税制改正によって封じられました。相対的に見て土地の値段が安く建物の値段が高い傾向にある国で中古不動産を購入し、簡便法による多額の減価償却費を計上して、不動産所得の損失と給与所得等を損益通算することによって所得税を圧縮するという方法でした。

最もよく見られる方法は、資産を不動産化して路線価評価を原則とする相続税評価の実務取扱い通例があることを奇貨として、借入金を負債として作り上げることと合わせて、現金(負債)と不動産の相続評価と実勢価額に生じる差額を利用する“節税”です。確かに、この方法は最も簡単な相続税対策として重宝されてきましたが、その方法や態様が、もはや節税対策とは言い難く、租税回避行為と映るくらいのレベルになると、例えば、先月19日に下された最高裁判決のようなことが起こります。

どういう事案かと言うと、被相続人の死去直前にマンション2棟を金融機関と相続人から借り入れした上で購入し、相続発生時に相続税評価を0円と申告したものの、最終的には約3億3000万円の追徴課税等が課せられたというもの。相続人らはこの処分を不服として取消訴訟を提起したのですが、最高裁は原告である相続人らの主張を退けました。もっとも、あの最高裁判決は、これまでの不動産の相続税評価の方針に大きな影響を与えないだろうと言われている程の、特殊な事案に適用された射程の短い判決であると言われています。

他にも、いわゆる“自販機スキーム”という、マンション購入の事業年度に自販機を設置して消費税還付を狙う“節税”方法もありました。要は、本来は非課税の売上に対応する課税仕入は控除出来ないところ、課税事業者に任意になれたことを奇貨として、課税売上割引での控除を狙ったものです。数度の法改正によって息の根を止められた方法ですが、そうなると今度は、簡易課税を利用したり、更にこれを封じられると、日本では課税取引となる金の売買で課税売上割合を一定にして課税仕入から除かれたというものも出るなど、いわば“いたちごっこ”の様相を呈していました。

それもこれも、数年前の法改正でとうとう息絶えたかに見えましたが、何とコロナ禍の一時期でしたが、わずかに息を吹き返したことが思い出されます。課税事業者から免税事業者へ、あるいは免税業者から課税業者への変更や、簡易課税の選択、取りやめの期間制限が特例なしに認められた時期があったことを利用して、ほんの一瞬ですが復活したというわけです。

しかし、冷静に税の構造を子細に読んでいくならば、不動産投資の世界で言われる“節税スキーム”と呼ばれるものの大半は、“スキーム”というほどのことではない小手先の方法に終始しているものが多いように思われます。“スキーム”というからには、国内外問わず、異なる税制や法適用に関する通則法を含めた会計法の差異を利用して、本来の仕組みでは想定していない結果をもたらすことです。

普通の会計原則とキャッシュフローと税制を絡めた話など、“スキーム”と言うには大げさ。不動産の資産管理法人設立にしても、要は使った時以外の時に経費になること、キャッシュが貯まる時期が違う、特別控除に使える所得になる(減価償却資産の売却)、支出はないが経費になる(青色申告特別控除)など、それを“節税”と言い換えているだけのことです。

ファンドを利用する方法、長期積立ファンドを利用する方法、私募ファンドを利用する方法、無分配型ファンドを利用する方法、匿名組合を利用する方法、外国の生命保険契約の解約返戻金を利用する方法などの方が、複雑ではありますが、“節税スキーム”という点だけからは合理的と言えるかも知れません。一つ一つについて解説しているだけで長文になってしまいますので、ここではその解説は割愛することにし、後日機会を見て解説したいと思います。

要は何が言いたいかと言うと、不動産投資を誘引する売り文句として言われる“節税”とは、その大半が“節税スキーム”というほどのものではなく、“節税”にすらなっていないものであって、逆に“節税”目当ての不動産投資は、投資が利殖行為の一つであるという当然のことを踏まえるならば、本末転倒な行為になりかねないということです。

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