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スルガ銀行と「三為」

全裸不動産の全裸幡随院(ばんずいいん)です。
1号の影武者です。(本ブログ初登場です)

長い期間お休みしていましたが、本日からブログ再開します。

先日、シェアハウスをめぐる不正融資事件(いわゆる「かぼちゃの馬車」事件)に関して、スルガ銀行と被害者のオーナーとの間で債務免除を認める第三次調停が成立したとの報が流れました。

既に報道されている通り、スマートデイズ絡みの不正融資事件が発覚した年に行われた同行による融資に関する全件調査の結果、行員による審査書類の改竄等の不正行為や不動産業者の関与も含めた不正の疑いが判明した融資総額は1兆円を超え、この金額は同行の不動産融資全体の約6割に該当しています。

事件が発覚した後にスルガ銀行が委託した弁護士によってなされた全件調査によると、行員が顧客の預金通帳のコピーなどを改竄する不正行為は計7813件、5537億円が確認され、不正の疑いが濃厚との判断がなされた融資も1575件、864億円が見つかっていました。加えて、顧客の自己資金を不動産会社が一時的に立て替え、銀行の審査を通りやすくした疑いのある融資も約4000件、約4300億円に上っていました。

「かぼちゃの馬車」事件では、シェアハウスの取得費用としてスルガ銀行が不動産業者と結託して不正に融資契約を行ったローンに関して債務免除を認めるよう、オーナー側が東京地裁に調停を申し立てていました。被害者弁護団によると、今月19日までにスルガ銀行とオーナー404人の間で、オーナーが土地と建物を第三者に譲渡することを条件に、404人分総額、約605億円の債務が免除されることになります。

これによって、総勢946人、約1485億円分が解決したことになります。しかし、アパート=マンション・ローンについて不正融資の疑いが持たれている件については、スルガ銀行は調停を拒否しているようです。第三次調停によってほぼ解決の見通しがついたのは、シェアハウスの件のみに限定されていますが、収益不動産投資物件のアパート・マンションローン全般に対する不正融資を巡って新たな問題がクローズアップされ、返済能力以上の融資や実勢に見合わない高い価格での物件購入などで損失を受けたとの声が大きくなることでしょう。

スルガ銀行不正融資問題は社会的にも関心が深く、先月、NHKで放映された『逆転人生-どん底からはい上がった人々の、真実の物語-』という番組でも、会社名が名指しされて取り上げられていたほどです。そのテーマは、「巨額の投資詐欺事件 銀行の不正を暴け」というもの。スルガ銀行が、不動産業者とともに価値の低いシェアハウスに投資させるため、約1000人に総額約1500億円を不正に貸付けたという事件にスポットを当てたこの番組では、巨大な金融機関を前にして為す術もない被害者の一人である会社員が、被害者団体を立ち上げて、同様の被害に遭った方々を束ねてスルガ銀行等に借金帳消しを求めて闘うという話でした。
 
スルガ銀行が組んでいた不動産業者の多くが、「三為(サンタメ)業者」と言われる業者でした。2008年のリーマン・ショックからの回復基調に入っていたことや、異次元金融緩和を含むアベノミクスの影響による株や不動産への資金の流入、ゼロ金利・マイナス金利策による収益構造の変化からくる金融機関の融資姿勢の転換、サラリーマン層への不動産投資の浸透などにともない、「第三者のための契約」をいわば悪用する形で仲介手数料以上の利益を狙い、宅建業法上の規制を事実上潜脱しようとしたいわゆる「三為業者」が大量に流入してきました。

「第三者のためにする契約」の方式を利用して不当な利益を得てきた不動産業者の“置き土産”と言えば、「三為」への拒絶反応でしょうか。つまり、「三為」と耳にするや、即座に拒否する人も増えてきました。「三為業者」とは、「第三者のためにする契約」方式を利用して法外な利益を上乗せした価格で顧客に売却していた不動産業者を主に指します。ここで注意すべきは、「第三者のためにする契約」そのものは制度上認められた契約形式であり、それ自体が悪というわけではないという点です。

問題なのは、顧客である一般消費者との情報の非対称性を奇貨として、業者が「第三者のための契約」を利用し法外な利益を上乗せした結果、もはや収益性が見込めないと認識していた物件を、欺罔行為を弄して消費者に売りつけ暴利を得てきたという点です。「第三者のためにする契約」そのものは、状況に応じて上手く利用することで契約当事者双方にとってメリットある手法であり、現に状況によって適宜使い分けされている契約形式です。

そこで改めて、「第三者のためにする契約」とは不動産取引の場合においてどう使われるかを見ていくことにします。

不動産業者が土地を仕入れて転売したり、その土地に建物を建築して販売する時、土地の所有権移転登記は、(旧所有者→不動産業者)を経てから(不動産業者→転売先等の買主)となるのが正式な手続きですが、その都度登録免許税を納付しなければならないので、その節約のために、旧所有者→買主への直接登記(いわゆる“中間省略登記”)がなされてきました。

平成16年改正不動産登記法により、登記は取引実態を反映したものであるべきとの不動産登記法の趣旨に合致させるべく、より取引実態がわかるよう「登記原因証明情報」の提出が求められるようになり、実態を反映していない“中間省略登記”はその申請時に受理されません。

問題は、(旧所有者→不動産業者→買主)と権利が移転しているのが実態であるにも関わらず、登記が(旧所有者→買主)となっていることです。反対解釈するならば、旧所有者と不動産業者が売買契約をしても、不動産業者に所有権を移転させずに旧所有者から買主へと直接移転させれば所有権移転の実態を反映していることになりますから、旧所有者から買主への直接に所有権移転登記をしても認められます。その都合に合う方法として、「第三者のためにする契約」や「買主の地位の譲渡」といった方式がとられます。

「第三者のためにする契約」では、売買契約の特約条項として、「乙(不動産業者)は、売買代金全額の支払いまでに本件土地の所有権の移転先となる者を指名するものとし、甲(旧所有者)は、本件土地の所有権を乙の指定する者に対して乙の指定及び売買代金全額の支払いを条件として直接移転することとする」の規定文言を添付しておくのが通常です。売買代金全額の支払いまでは、本件土地の所有権は乙に移転しないから、その買主(丙)が決まるまで甲への代金の一部を残しておけば、乙に所有権は移転しません。土地の転売をして、転買主(丙)が決まるまで、甲への代金の一部を残しておけば、乙に所有権は移転しない。そして、転売先の買主(丙)が決まった時に、土地の所有権を甲から丙に移転する登記をします。

この取引では乙に所有権は実体的に移転していないので、甲から丙に直接に所有権移転登記を行っても所有権移転の実態を反映しており、それゆえ不動産登記法の趣旨に反することにはならないというわけです。

もう一つの方法である「買主の地位の譲渡」という方式では、「乙(不動産業者)から甲(旧所有者)への売買代金の支払いが完了した時に本件土地の所有権が乙に移転する」という特約文言を売買契約書に添付しておくことになります。買主(丙)に転売するまで、甲へ支払う売買代金の一部を残しておけば、乙に所有権は未だ移転していない状態にあります。そして、買主(丙)が決まった時、乙丙間で「乙の買主としての地位を丙に売買により譲渡する」という契約をし、その承諾を甲に求め、甲が承諾して甲から丙に直接に所有権移転をする方式です。

双方とも、その制度趣旨に適した方法として利用すれば、契約当事者双方の利益に資する方法となりえます。スルガ銀行問題は色々と負の遺産を遺しましたが、その一つとして、「第三者のためにする契約」に対する誤解が蔓延してしまったことがあると言えるのではないかなと思っています。

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