(戯曲)「珍子は立ったまま沸騰している」

「珍子は立ったまま沸騰している」(戯曲)

老婆、ぼろ一枚をまとい、両膝を立て座っており、陰毛に覆われた陰部が丸見えになっている。

老婆 戦争はいかん、戦争はいかん、と皆、念仏のように言うがの、戦争で大もうけ、殺し合いで出鱈目に命捨て散らかして、本当はそれで皆、満足しとるのよ。でなければ、敵に向かってでなく、上官に向かって引き金を引けばよかろうが。どうせ殺すのならば、お国を虐殺して差し上げるべきであろうが。祖国の敗北こそ、祖国の為であろうが。それが本物の愛国者の革命的祖国敗北主義であろうが。それが分からんのか、バカどもが、チッ(唾を吐く)、、、せがれは大分前に死んだわ。徴兵拒否してな。憲兵に逆らって拳銃で撃ち殺されて死んだのよ。こげな老いたババア一人残してな、、うう(泣く)

紗倉まな、登場。日章旗を振り、鉢巻、黒の学ラン上下姿。高校の応援団長(女)か国粋右翼女学生のようである。

紗倉 死ね死ね死ねーい。皆、死に足りんのじゃー。もっともっと何回も死んで、殺せー!今回決定した集団的自爆権と基本的特別人権の保障、つまり靖国英霊法は我々日本人にやっと死に場所を与えてくれるまさにこれこそ武士の道。やっと死ねると皆、よろこび勇んでおるのだ。自殺するにもその勇気のなかった者。やっと死ねる時がきた、笑え、ハハハハハ!こんな詰まらん日本など滅ぼせ、皆そう思っておるのだ。戦争で滅びればよい、皆そう思っておるのだ。めでたい、めでたい、戦争万歳!天皇陛下万歳!皆そう思っておるのだ。やっと皆、自分で意思して死のうとしておるのだ。めでたいことではないか。笑え、笑え、ハハハハハ!のうお主、めでたいと思わんか、おい、ババア!そう思わんか
老婆 へえ、景気のよかこつでございますなぁ。ん、福女(ふくじょ)の短大生でありますかの?女子(おなご)であられるのに張り切ってハラキリなさって、私には難しか話はいっちょん分からんですがの、ご立派であられますなぁ
紗倉 言っておくがな、オレはネトウヨではないぞ。オレはれっきとした右翼であるぞ。分かっておるだろうな
老婆 へえへえ、分かっておりますとも。女の幸せも捨ててお国のため右翼になられたんでございましょう。ご立派な方でございます。えろうございます。ニッポン女子の鏡でございます。ははー、(平伏す)こんなご立派な方は他におりません。やっぱり小便も男子便所でなさりますのですか?
紗倉 ば、バカを言うな!おい、ババア、オレを侮辱するのか、許さんぞ。
老婆 でも、便所が女子便じゃおかしかろうが
紗倉 いや、それは、、
老婆 女、捨てたんじゃろ?なんで男子便所に行かんのや?
紗倉 だから、それは、、
老婆 男に犯される時だけ女に戻るっていうのは都合が良すぎんかのう
紗倉 うるさい、黙れ!
老婆 きれいなお嬢ちゃんが右翼なんかやったって、所詮女は女さ
紗倉 違う!オレは結婚なんかしない。オレはれっきとした右翼だ
老婆 へえへえ、立派立派、、がんばってくんなせえ、、(その場でぼろをまくり上げ、ジョジョーっと立小便して去る)
紗倉 なんだ、あのババア、舐めた口利きやがって。ああ、くせえ。小便くせえ。これだから教養のない田舎のババアは手に負えないんだ

紗倉小太郎、登場。紗倉まなの兄。国会議員山本太郎にそっくりの格好。ピンクのポロシャツ、黒リュックにきらきらの天然石ブレスレットが右手に2つ。短パンというか、デニムのぴちぴち半ズボンに手を突っ込んでいる。多分、山本太郎のシンパなのだと思う。

小太郎 うおおお~!このスットコドッコイ。日の丸はまた西から昇るのか、いやいや、日はもう沈む。私は黄昏ていくこの国の最後のともしび。西の空に浮かび、やがて夕日とともに消えてゆく宵の明星、アケボシ。それが私。皆の衆、もう思い残すことはないか?皆の衆、最後に言いたいことだけは言っておけよ。言えなくなる前に。天皇陛下に50年ぶりに直訴した男はこの紗倉小太郎!、ではなく国会議員の山本太郎、結構間違われるんですが、私は別人です。天皇陛下に50年ぶりに直訴した男、紗倉小太郎は私!、、ではなく、直訴したのは国会議員の山本太郎でして、私なんかには雲の上の人で、ただ憧れの、私の手にも届かない、まさに、今が旬のいい男。それに比べれば私は、単なる金魚のフン。妹思いの、一般的にただフツーのありふれた、何の取り柄もない、見るからに頼りにならない、見た目だけちょこっと山本太郎に似ているだけの、紗倉小太郎。いや、そんなことはどうでもいいんです。実はですね、そーなんですよ。私は妹を探してるんです。誰か知りませんか?私の妹。あのー、ちょっと可愛い右翼なんですけど、心は本当は優しい、私の妹。名前は「まな」って言うんですけどね、また今日も家出されて、兄である私は頭悩ましてるのです。どこかで見かけませんでした?けっこうロリ顔で、かわいいんですよ。私、たまに妹自慢をすると「お前、シスコンやろ」と根も葉もない容疑を突き付けられて困るんですけどね
紗倉 兄貴、、(小太郎の肩に手を掛ける)
小太郎 え?あ、いた!いたいたいたーー!もうー、ここにいたのー、捜したんだよー、ね、まなちゃん、帰ろう。一緒に帰ろうよ。何も言わずにさ。ね、ね、僕の可愛い妹、いやだなー、別に左翼に転向しろ、なんて言わないからさ。お兄ちゃんもね、妹の主張は主張で、一応は聞いて、それはそれで尊重するんだから、安心して帰っておいでよ。ね、一緒に帰ろう
紗倉 オレに触るな!
小太郎 あ、ごめんごめん。別に、スキンシップだから。スキンシップ、スキンシップ。気にしないで
紗倉 で、ちょっと聞きたいんだが、、兄貴、実は、、
小太郎 なんだい?何でも相談に乗るよ
紗倉 では聞くが、右翼は、女でも男子便所に、行くべきだろうか
小太郎 それは、、男女平等という意味で言っているのかな
紗倉 いや、あくまで男尊女卑だが
小太郎 左翼であれば女は男と同等、便所も風呂も同じであるべきだが、右翼であれば女は女らしく、という訳で、別であるべきだと思う、、ああ、でも、まなちゃん、僕の妹よ。もし僕が君と一緒にお風呂に入ったら、確実に僕のチンポは(ズボンを下し、チンポをおっ立てて言う)起ったまま沸騰している
紗倉 あん、バカ、もう、いやん!(小太郎を平手打ち)お兄ちゃんやっぱりシスコンじゃない!
小太郎 いや、違うよ、違うんだって!まなちゃん、誰だって君みたいな可愛い妹がいたら、シスコンになるに決まってるだろ
紗倉 違わないわ。お兄ちゃん、わかって。もう正義なんてとっくに死んでるの。あなたがいくら山本太郎になるっていきがったって、そんなの夢のまた夢でしかないのよ。私、もうそんな夢、見てられないの。だから私は私の道を行くわ
小太郎 夢じゃない、僕は絶対かっこいい左翼になって、まなちゃんの目を覚まさせてやるんだ。だから、なあ、お願いだから行かないでくれよ。そっちは地獄の釜が開いてるんだから。悪いことは言わない。戻ってくるんだ。もうオルグなんかしないから。だから、こっちを振り向いてくれ。だから、行くな。だから、戻ってきてくれー!
紗倉 いやだ、もう決めたのだ、オレは行く
小太郎 待ってくれよ
紗倉 もういいんだ、兄貴、とめるなよ
小太郎 まなちゃん、思い出すなあ。5才の頃を。夏の祭りでまなちゃんは歩けなくなって、おんぶしてってせがんでくるから、お兄ちゃんはずっとまなちゃんをおんぶして、ふんどし男たちが赤い山車のヤマを引っ張って行くのをずっと一緒に見てたよなあ
紗倉 兄貴、もうオレは昔のオレじゃないんだ。オレは右翼。兄貴は左翼。歩く道が別じゃないか
小太郎 でも、僕たち兄妹だろう?
紗倉 思想は兄妹の仲も引き裂くものさ
小太郎 そんなこと、絶対に納得できない!
紗倉 問題はどう死ぬかってことだけさ
小太郎 違う、生きるんだ、どんなことも問題はそれだけなんだ!
紗倉 兄貴、もういい、あばよ、元気でな
小太郎 まなちゃん、行っちゃダメだ。ああ、行くなー!
紗倉 兄貴、もうチンポは仕舞った方がいい(紗倉、去る)
小太郎 僕が不甲斐ないばっかりに妹は道をふみあやまってしまったんだ。僕にもっと力があれば、太郎さんみたいな力が、ああ、太郎さーん、僕に力を、太郎さんみたいな力をください。太郎さーん!(小太郎、退場)

背景に山本太郎の映像と音声がランダムに、とぎれとぎれに映し出され、消える。感動的な場面が次々に現れては消える。水戸黄門の主題歌が流れはじめ、お銀の入浴シーンなど映される。助さん、角さんとおぼしき人、その中央に黄門様とおぼしき老人が現れ、決意性に満ちた顔、いかつい表情で正面を凝視している

老人 助さん、角さん、懲らしめてやりなさい!
助角 ハハッ!
老人

(続く)

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