How Supply Chain Transparency Boosts Business Value②(サプライチェーンの透明性がビジネスバリューを高める)

目次

序論:サプライチェーンの透明性がビジネスバリューを高める
 1:監査は始まりの一歩でしかない
 2:SCを可視化するためのいくつかの障壁を乗り越える
 3:透明性が新しいビジネス機会を作り出す
結論:その先に向けて

参考文献
https://sloanreview.mit.edu/article/how-supply-chain-transparency-boosts-business-value/?social_token=f753a7c951e7ec867b0e8c8f7845c5a1&utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=sm-direct


 1.  監査は始まりの一歩でしかない

かねてより、サプライチェーンの透明性とそこでの法令遵守を担保するために、企業は監査という手段でそれを行ってきた。しかし、サプライチェーンの透明性を本当の意味で実現するには監査だけでは足りない。というのも、監査は、監査時のサプライチェーンの調達状況を瞬間的に捉える、言うならばスナップショットに過ぎないからだ。サプライヤーは監査はやり過ごすものと捉え、出したくない情報を巧妙に隠すケースが多々散見されている。さらに、監査には時間とリソースを膨大に要するため、頻度は少なくなり、一次サプライヤーや重要なサプライヤーのみに焦点を当ててしまいがちだ。現実には、深刻なサプライチェーンに関わる事件は、更に下位のサプライヤーにて発生することが多い。例えば、3,992件の事例調査では、二次サプライヤーは一次サプライヤーより平均18%以上、三次サプライヤーは27%以上が、監査規定に反することを行なっていた。

監査の有効性を高める上で、企業は従来のやり方にとらわれず範囲を広げる方法を探さないといけない。例えば、大手アウトドアウェアのPatagoniaは、サプライヤーの全容を正確に把握するため、2000年代後期にサプライヤーの数を半分に減らした。その結果、年次監査では総材料費の80%を占める全ての一次、二次サプライヤーを監査することができた。この改革はサプライヤーとのより強固な関係構築だけでなく、サプライチェーンのさらなる可視化、そして消費者からのブランドへの信頼獲得に繋がった。

Patagoniaのように監査対象を一次サプライヤーを超えて拡大するには、大きな労力と経営資源が必要なため多くの企業にとっては難しいかもしれないが、これ以外にも方法がある。一つは、独立した監査機関、地元の労働組合、サプライヤーの地元のNGOなどと連携することだ。例えば、国際労働機関は国際金融公社とパートナーシップを組み、Better Workプログラムを行っている。これは東南アジアやアフリカを含む9カ国の縫製工場において、労働基準を遵守した作業環境の確保を目的としたもので、参加各国の労働基準の遵守状況を評価し、遵守しきれていない部分は、問題解決に向けた専門家による助言や訓練を行うサービスを提供している。現在、1700の縫製工場がこのプログラムの対象となっており、2400万を超える労働者の声が尊重されている。高頻度かつ事前予告のない監査と、地場の労働組合や地元政府と協働するなどの地に足のついた活動を通して、海外から来た企業が解決できない地域個別の課題を明らかにし、問題解決に向けた取り組みができる。

複数の企業が同じサプライヤーを起用している場合は、合同監査を行うこともまた一つの方法だ。2013年にバングラデシュで起きたラナ・プラザの悲劇では1100人以上の死者を出す結果となり、アパレル業界、企業、小売業者らのサプライチェーンに透明性と可視性が欠けていることが世に明らかとなった。この事件を受け、欧州のアパレル企業では、供給する衣服の生産に従事している人々の労働環境を改善する動きが強まり、コンプライアンスを遵守して、労働環境の監査基準を策定するに至った。彼らは、安全な労働環境の保全と監視を目的とした、5年間の法的拘束力を持つ「バングラデシュにおける火災予防および建設物の安全に関わる協定 (The Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh)」を制定し、多くのアパレル企業がこれに署名。本協定の一部として多数の企業が合同監査を行い、その費用を共同負担した。

信頼できる第三者を通して監査情報を共有することは、サプライヤーの監査対応の推進力につながる。Sedex社(*5)や、Fair Factories Clearing House(*6)などのNPO団体は、バイヤーやサプライヤーが簡単かつ効果的に監査情報を共有できるオフラインツールやプラットフォームを提供している。監査情報を共有することで、サプライヤーの監査プロセスに伴う労力を軽減することができる。このような画期的なサービスやツールを利用することで、監査プロセスを効率化し、企業やサプライヤー達の監査対応への意欲向上に繋げることが可能だ。

しかし、このような企業連携・協働にはいくつかのハードルが残っているのも事実だ。企業やメーカーは、競合他社に知的財産や機密情報が漏洩するリスクを鑑み、監査情報を全面的に開示することに消極的であることが多い。多くの企業は、彼らのサプライヤーに競争アドバンテージがあると思っており、彼らの情報は開示するべきでないと思っている。Sedex社の経営陣は、企業にとってこのような抵抗を乗り越えることは容易ではなく、究極的には参加企業の信頼関係を構築することが求められるだろうと語っている。大手バイヤーを巻き込み、彼らが率先して監査情報を共有することのメリット、参加企業との信頼確保を示すことが、このチャレンジを乗り越える手助けとなり得る。

企業同士が協働する上でのもう一つのハードルは、監査情報が企業によってどう解釈されるか、またどう評価されるかが違うことだ。アパレル業界でも、社会・労働条件を評価する監査における共通基準がないということが問題になっており、それを乗り越えるために、Social and Labor Covergence Program(*)を一緒になって基準を作り上げている。このプログラムは、このような複数のステークホルダーを束ねて共通の基盤と、企業の行動を比較可能な測定基準を作ることを目的としている。面白いことに、SLCPが重きを置いている箇所はデータの収集と情報の共有で、データをどう解釈するかはそれぞれの企業に一任されている。このように業界全体で比較可能なデータ生成し、共有できる手段を提供することで、単なる監査やコンプライアンス遵守を超えて、労働環境改善に寄与できる。

これらの監査に関する新しいアプローチはサプライチェーンのコンプラインスに新しい風を吹き込んでいるが、これは解決策としてはまだほんの一部でしかない。 

(*5)Sedexは、グローバルサプライチェーンの労働環境を管理、および改善するためのオンラインプラットフォーム(ツール)を提供している。組織が、責任を持って持続可能なビジネスを構築し、調達活動を行えるようサポートを行っている。(https://www.sedex.com/ja/)

(*6) FFCとは社会的/環境的データの追跡/管理を行うための支援データベースで、同じ工場と取引のあるアパレルのブランド間で監査結果を共有することで、監査頻度を削減することにつながっている(https://www.fairfactories.org) 
*文章はパタゴニアHPからの引用 (​​https://www.patagonia.jp/fair-factories-clearinghouse.html)

(*7) グローバルサプライチェーンにおける労働環境の監査における比較可能なデータやツールを提供しているNPO団体 (https://slconvergence.org)

次回

次回は、『2:SCを可視化するためのいくつかの障壁を乗り越える』をご紹介します。

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