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グローバルサプライチェーンが抱える構造的な4つの課題とは

今回の記事は、前回の続編となっています。ここまで、グローバルサプライチェーンの重要性についてご理解いただけたでしょうか。
*前回の記事:https://note.com/zenport/n/ne42c85f68f1b

グローバルサプライチェーンの4つの構造的課題

それでは、グローバルサプライチェーンが抱える構造的な課題とは何でしょうか。前提としてグローバルサプライチェーンの課題は、⑴プロセス全体を通じた課題と⑵各業務領域が抱える課題、の大きく2つに分けて考えることができます。

まず今回の記事では、⑴プロセス全体を通じた課題について、Zenportが考えた4つの観点から議論してゆきます。

①労働集約的
長時間労働、単純な手作業などを含む人海戦術による業務の進め方や、個々人の職人技に頼る属人的な業務の進め方が広く行われ、業務効率が低いこととともに利益を圧迫する原因にもなっている。
②データが残されない
取引やプロセスに関する情報が「データ」にされていないことが多く、口頭やメールなどでやり取りされてデータが全く存在しないものから、あってもエクセルで、そのデータを他の組織やデータと連携して活用することができない。
③データのサイロ化
あたかも互いに隔絶した「サイロ」の中にあるかのように、データを持っていても様々な関係者が別々に保持し連携することが難しい。このため、場所や時間を超えてリアルタイムで情報を活用するとることができない。
④SDGs (Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)
国をまたがり高度な協業が行われているグローバルサプライチェーンはその活動自体が、貧困対策、労働環境の担保、地球温暖化対応、サステナブルな生産活動の実現など、「持続可能な成長」の実現に密接に関係している。
 

①労働集約的

<現場業務>
「エッセンシャルワーカー」という言葉に象徴されるように、サプライチェーン業務を担う多くの人々がコロナ禍でも出勤を強いられてきました。このように、配達業務や倉庫でのピッキングや出荷作業、そして商流、物流、金流を担う多くの事務業務、特に書類を扱う業務などグローバルサプライチェーンを動かしている多くの部分は未だに人が担っています。

配送を止めないために、倉庫ではコロナ禍でも出勤し商品を受け入れ出荷する。そして、トラックドライバーは昼夜を問わず長距離を運転する、という具合に、サプライチェーンを動かす業務は多くの場合、厳しい条件下での労働に支えられています。国際間でも電子商取引(EC)は伸長しており、これが倉庫、配送業務の負荷を更に高めていることも現在では頻繁に議論されています。しかし、経済を止めずサービスレベルを維持するためには人手を介することが不可欠です。

このような課題解決に向けた一例として、人や物の移動を中心に様々な用途への活用が期待されているのが自動運転技術です。例えば、運転操作の自動化を目指す米国Waymo(現在はAlphabetの子会社)、顧客それぞれが自社の所有する車両で使用できる自動運転技術を提供する米国Aurora、自動運転トラックの実用化に向けた中国Plus.ai、米国Embark Trucksのようなサービスがあります。

また、EC需要の拡大に伴いドライバー不足が深刻化する中で、自動運転技術を用いて低料金を実現するテクノロジーとして大きな期待を寄せられている物流ロボット(宅配ロボット)の分野では、米国スタートアップのNuro、同国Starship Technologiesなどがあります。また、EC系企業も積極的に参入しており、米国Amazonや中国の京東集団などの大手企業や中国Neolixなどのスタートアップも実証を重ねています。

その他倉庫ビジネスの分野では、棚ごと商品を運んできてくれるような物流ロボット「GTP(Goods to Person)」と呼ばれるサービスにおいて、米国Amazonが導入する同社のDriveやインドのGreyOrange、中国のGeek+などがあります。

<事務業務>
こうした物流施設などの現場でのオンサイト業務に加えて、サプライチェーンを動かすオフサイトの事務業務も労働集約的な業務です。貿易業務では、現在も大量の紙・メール・電話を使用した、アナログなワークフローが主流だからです。

貿易業務では、一人の担当者が月に数100枚の貿易書類に関する情報収集や調整を行い、実際に書類を作成して関係者に共有する、ということは特に珍しいことではありません。アパレル取引にある通称「暫八」(暫定八条)と呼ばれる関税の減免措置を受ける手続きでは、輸入者は一回の取引で数百枚の書類を用意することもあります。ここでは、輸出者側での材料の利用効率や実績を確認し、それらを手作業でエクセル表に記録し、それを元に書類を作成する、といったプロセスを経るものもあります。中国からの輸入の場合は輸送日数も数日と短いことから、担当者の方は輸入通関に間に合わせるため深夜まで書類作成や確認に追われることもあります。

労働集約的な事務作業が必要になる背景には、この後述べる、②、③の理由があります。データ化される仕組みが存在していなかったり、基幹システムなどにデータが残されているが、それを組織を超えて活用できる道筋がない、などの構造的な課題があります。

さらにその裏には、そもそもグローバルサプライチェーンの業務では、輸出者、輸入者、フォワーダ、通関業者、船会社、そのほか陸運業者など多数の関係者が登場し、その多様な関係者を結ぶ仕組みが作りにくいというまた一層根深い構造上の問題があり、手作業を必要とする業務フローを作っています。

このように、自動運転や自動倉庫などのデジタル化で解決できるような肉体労働的な業務領域に加えて、日々の事務作業でも労働集約的かつ属人的な業務が行なわれており、業務効率を奪っているのが、サプライチェーンの現状です。

そして、労働集約的な事務作業の軽減には、このあと述べる②、③が大きく関わっています。

②データが残されない

先述した通り、グローバルサプライチェーンでは物理的に離れた距離の間で、物や情報のやり取りを行います。

しかし、その取引情報やプロセス情報がデータとして残されているケースは多くありません。一例としては、企業間での契約情報は紙やPDFで残され、各企業においては基幹システムなどに入力されるケースもありますが、極端なケースでは口頭の契約で取引が進んでいくこともあります。

また、プロセス情報についても同様で、生産・輸送・在庫といったプロセスで扱われる商品情報がデータとしてプロセス情報と連携しておらず、リアルなモノの動きがデータと結びついていないケースも多々あります。船や飛行機、コンテナの動静、トラックの位置情報などはデータ化されていますが、一方でそこに載っている商品情報がデータ化されておらず連携しようにもできない、という状況が生まれています。

例えば、アパレル産業などでは生産・検品されて出荷される商品と数量はデータ化されていないことが多く、エクセルや手書きのメモなどで管理されています。輸送する船の情報などがあっても実際に載っている貨物については、複雑なコミュニケーションを通じて確認することが必要なケースも多々あります。

これに対しては、大きな技術の枠組みでいえばIoT、個別の技術ではGPS、RFIDなどを利用した「データ化」の技術があります。

例えば、IoTでは、業界の垣根を越えて業務の安全性・効率性・持続性を高めるプラットフォームを提供する米国SamsaraやイスラエルWiliotが、GPSでは、トラック輸送のデジタル化やあらゆる産業の業務コストの削減を実現する米国KEEP TRUCKIN、正確な位置情報を提供しスムーズな移動や業務効率化を実現する英国What3words、RFIDでは、25年以上に渡って小売・アパレル・輸送・生命科学及び他の数多くのアプリケーションに関連する専門的なサービスを提供してきた米国Alien Technologyや米国Honeywell、RFID技術とIotプラトフォームを掛け合わせたプラットフォームを提供する米国mojixなどがあります。

③データのサイロ化

前段落でご説明した通り、サプライチェーンでは国や企業をまたいでそれぞれのデータを使用するため、本来であればそれらは連携された状態でなければいけません。しかし、データのサイロ化、つまり、それぞれのデータが孤立してしまっているのがサプライチェーンの実情です。

実際に、データのサイロ化によって顕在化しているの直近の課題の1つとして、以下のような事例があります。例えば、船のデータはあるのにも関わらず、それらを確認する手段は船会社のホームページしかなく、わざわざホームページまでいってコンテナ番号を手作業で検索し、それをエクセルに貼り付けてお客さんに共有している、という事例です。

このように各データがサイロ化した状態が続くと、例えば、倉庫のデッドスペースを生み出したり、余計な人員を配置したり、納期に間に合わないことで棚が開き売り逃しに繋がってしまうなど、オペレーションを通じた負の連鎖が終わりません。

また、サプライチェーンを最適化するために必要な情報は、先ほどご紹介した「発注→生産→物流→在庫→販売」の各業務領域の情報が、言い換えると、他の要素が定めています。そのため、これらの情報が連携、繋がっていないと、売り上げを最適化できない、適正な量の在庫を維持できない、発注を適正に行えないといった財務的な課題が会社に返ってくることとなり、経営的な問題も引き起こしてしまいます。

このような課題に対しては、Visibility(可視化、ビジビリティ)がキーワードとなってきます。例えば、荷主および物流企業向けに貨物輸送状況の追跡を支援する米国project44を始めとして、米国Flexport・米国FourKites・米国Overhaul・米国Cloudleafなどのトラッキングサービスがあります。

その他、キャッシュフローや売上のリスクになり得る例外的な調達取引をはじき出し、個別のメールやスプレッドシートを使わず、バイヤーとサプライヤーが同じ環境の上で取引情報を交換する仕組みを提供する米国Sourcedayを始めとした、米国Verusen・米国Alloy・ノルウェーXenetaなどが属する調達サービスも存在します。

また、プロセスを結びつける統合的なものとして、Blueyonder、Oracle、SAP、Infor、日本では、TradeWaltz、Zenportといったサービスがあります。

④SDGsとの密接な関わり

オンタイムデリバリーを実現するための配送業の過酷な労働条件、発展途上国における児童労働問題、トラックなどの輸送機関が発生させる二酸化炭素排出量の問題や貧困問題など、サプライチェーンとSDGsの17項目は、実は密接に関わっています。

例えば、先進国から送られてくる廃棄物とも言えるような質の低い衣服が、アフリカのアパレル経済を逼迫し、文化を破壊しまうことすらあります。
*参照記事:「古着寄付の裏側:アフリカでの現状とは?」https://globalnewsview.org/archives/10263

また、2013年には、ダッカ近郊首都にあるバングラデシュの商業ビル崩壊事故が発生し、この「ラナプラザ崩壊事故」では、1000人以上の死者、2600人以上の負傷者と多くの方々が犠牲になりました。バングラデシュは多くのアパレル会社が生産拠点を構える場所でもあり、崩壊したラナプラザビルにも、ファッション業界で働く、数多くの労働者の方々がいらっしゃいました。この事故をきっかけに、ファッション業界の労働環境・安全対策が強く見直され、ヨーロッパ発祥のアパレルブランドが中心となって、改善に向けた動きが見られるようになりました。
*参照記事:
https://theconversation.com/years-after-the-rana-plaza-tragedy-bangladeshs-garment-workers-are-still-bottom-of-the-pile-159224

このように、政治から経済、各国の貿易摩擦、人権問題、さらにはサステナビリティなど、サプライチェーンには、SDGsの観点からみても様々な要因が絡み合い、それぞれの問題に拍車をかけています。

サステナビリティを中心として幅広い視点からサプライチェーンに関わるSDGsですが、カーボンニュートラル(二酸化炭素排出量削減)を実現する、スペインのADEX・イギリスのCarbonChain・米国PROMETHEUSや、サキュラーエコノミー(循環型経済)を実現する、いイギリスのWASTEVU・オランダのCIRCULARISEや、リサイクリングなどのテクノロジーを持つ、イスラエルのubq・フランスのURBYNなどがあげられます。

さいごに

前回の続編として、今回は「グローバルサプライチェーンが抱える構造的な課題」について解説してきました。次の記事では、具体的な「発注から販売までの各業務領域が抱えるそれぞれの課題と、それらに対する業務領域別のソリューション」について、解説してゆきます。

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