How Supply Chain Transparency Boosts Business Value④(サプライチェーンの透明性がビジネスバリューを高める)

目次

序論:サプライチェーンの透明性がビジネスバリューを高める
 1:監査は始まりの一歩でしかない
 2:SCを可視化するためのいくつかの障壁を乗り越える
 3:透明性が新しいビジネス機会を作り出す
結論:その先に向けて

参考文献
https://sloanreview.mit.edu/article/how-supply-chain-transparency-boosts-business-value/?social_token=f753a7c951e7ec867b0e8c8f7845c5a1&utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=sm-direct

3:透明性が新しいビジネス機会を作り出す

サプライチェーンにおいて可視性を獲得することは、サプライヤーの環境的・社会的な秩序の維持や、改善につながるが、潜在的な便益はそれだけではない。可視性を改善することで、新しいビジネス機会を作り出すこともできるのだ。例えば、透明性をコンセプトとしたビジネスモデルを持つ中小企業とスタートアップに焦点を当ててみよう。チョコレートやコーヒー産業では、劣悪な労働条件と低い賃金が常態化しているが、Goodio ChocolateやMoyee Coffeeなどの企業はE2Eの可視性という理念に基づき、バリュー・プロポジションを創出した。同様に、化粧品産業も商品の潜在的な健康リスクを明らかにしないことについて長いこと批判されてきたが、Beautycounter社のような企業は、"Clean beauty"という理念を掲げている。

これらの企業にとって、サプライチェーンの可視性の改善からなる市場価値を得るための方法の一つは、サプライチェーンにおける環境や社会への配慮を公に示すことだ。商品やサービスの持続可能性が消費者の関心および、購入基準に含まれている現在では、このような開示が市場での優位性を高めることができる。大学内の書店とオンラインサイトに衣服を卸している公式アパレルメーカー・Alta Gracia Apparel社を例に挙げてみよう。Alta Gracia社は、生産拠点であるドミニカ共和国の従業員へ、従業員とその家族が生活に必要な費用をカバーするべく、法令に定められているものより340%高い賃金を支払っている。マーケットにおいて高い透明性を示す事がどれ程の価値を生み出すか把握するため、Alta Gracia社は調査機関と共に大学の書店で実地調査を行った。この取り組みについての動画が書店で流されるようになった後、同社の売り上げは飛躍的に伸びる結果となった。

MIT Sloanの調査によると、サプライチェーンにおける可視性を高めた企業は様々な便益を享受するケースが多く見られた。CSRで謳われている文言に顧客が懐疑的である事が多い中、可視性を高めることは企業に対する顧客の信頼性をより確固たるものにし、売上向上につながり得る。さらに、高い可視性を持つ事は、企業の社会的な責任に対して、それほど関心を持たない消費者に対する周知行動ともなり得る。グローバル展開している企業は、国ごとの文化的特徴を考慮し、それぞれの国で違ったCSR戦略を持つことで消費者に自身の商品やサービスをアピールする事も可能だ。例えば、米国のように競争が多く個人の実績が評価される文化を持つ国は、事実に基づく謳い文句に消費者が強く惹かれる傾向がある。一方、フィンランドのようにQOLや他人への配慮を重んじる文化がある国では、商品やサービスを利用した人の体験の共有が消費者の関心を引き寄せる傾向が強い。

新たなビジネス機会を作り出す2つ目の要素は、効率性の強化にある。可視性を高めることで、企業は環境的・社会的責任行動に関する取り組みをより効率的に設定することができ、かかる行動に伴う結果を正確に評価することができる。つまり、企業は今や、サプライチェーンにおける環境・社会問題に取り組むために必要なリソースや適切なサプライヤー達に直接繋がることができるのだ。これは特に発展途上国において企業行動を改善するcapacity buildingを支援することにもつながる。例えば、Goodio Chocolateはペルーの中小カカオ生産企業から直接カカオを仕入れている。これらの企業と密接な関係を促すことで、Goodio Chocolateはサプライチェーンと労働環境を可視化し、カカオ豆の品質や、労働者への適切な待遇を補償している。長い目で見ると、彼らのような中小生産者を支援し強化することは、生産者の行動を改善し、幅広いバイヤーへのアクセスと、マーケットにおける適正価格での取引成立につながる。

3つ目の潜在的な便益は、業界の中での常識を覆すリーダーになれる機会があることだ。Taylor Guitars社を例にとってみよう。2010年代初期、黒檀の需要が高まり供給が追いつかない状況下不法な黒檀伐採が横行し、多くのギター生産業者が反コンプライアンスと企業の信用低下リスクに晒された。

Taylor社は当時カメルーンのCrelicamの製木工場から黒檀を仕入れていたが、地域の小規模サプライヤーから原木を調達する方向へ転換した。2011年にカメルーンを訪問した際、Taylor社の経営層は黒檀の調達価格に関わる不穏な事実を発見したのだ。例えば、木材サプライヤーは、1本の理想的な真っ黒な色を持つ木を探し当てるため、平均して10本の木を伐採していた。更に、同製木工場で劣悪な労働環境で従業員が働かされていたのだ。これらの事実を発見が、Taylor社の製木工場買収につながり、黒檀のサプライチェーンを垂直統合するきっかけとなった。また、同社は米国の工場のものと同じ労働条件を持ち込むことで、労働環境の改善を図った。これにより製木工場は、縞が入った(すなわち真っ黒でない)木材に対しても真っ黒な黒檀と同じ価格で取り扱うようになり、Taylor社は競合他社への木材の販売を始めた。木材サプライヤーとギター生産者という二つの立場を巧みに使うことによって、同社はマーケットのみならず消費者と競合他社を啓蒙し、真っ黒な黒檀のみがギターに使われるというそれまでの常識を変え、黒檀林の持続可能性の飛躍的向上に繋げた。

Taylor Guirats社だけではなく、業界の常識やサプライチェーンの透明性の追求に関わる意識を変えた企業の例は他にもある。例えば、アパレル業界で言えば、PatagoniaやNIKEは大企業がサプライヤーのリストを開示し、商品がどのように調達され生産されているかの見取り図を世の中に共有するべきであるということを、自ら率先して示している。同様に、スターバックスはC.A.F.E.プラクティス (Coffee and Farmer Equity (CAFE) Practices) という独自の認証プログラムを2004年に始めた。これは、コーヒー産業で倫理的な調達基準を定めた最初の取り組みの一つである。C.A.F.E.プラクティスの主軸は透明性で、コーヒー豆がどこで調達されているかと、コーヒー農家に支払われた対価についての情報をサプライヤーに提出させている。C.A.F.E.プラクティスによって、スターバックスはコーヒーサプライヤーとの密な関係構築ができ、コーヒー業界における倫理的な調達を促進した。同社は世界のコーヒー豆のうち3%を調達しており、18%以上がC.A.F.E.プラクティスの認証下の元調達されている

次回

次回は、『結論:その先に向けて』をご紹介します。


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