かたくなる

<前回の話>

学校へ行かなくなった最初の日のことなんですが、まったく覚えていません。「体調が悪い」といって休むことにしたのか、それともただなんとなく行かなかったのでしょうか。私自身を守るために、すっかり忘れてしまいました。

今まで書いてきたことは、当時の感情を、のちに言語化できたものを再構成しています。膨大な時間をかけて自分と向き合ってきたので「いま思うと、あの時はこうだったな」という輪郭が、要所要所でけっこう描けています。それらを現在の語彙で着色しているのが、今回の「不登校」の話です。

ピンポイントで学校へ行かなくなった日については、「いま思うと…」の工程を長らく避けていたら、いつの間にか「追えなくなった」というのが正直なところです。そこだけ後から新雪が積もって、足跡が消えてしまったような感じです。出来事の山頂に近いこのあたりは、ところどころ新雪に覆われていて詳細が思い出せません。

少し進んで新雪のゾーンを離れると、休み始めてから数日経ったあたりに出ます。すでに両親としても、これは明らかに何かがおかしいとなっているので「学校で何かあったのか?」「話してみてほしい」という機会が少なからずあったかと思います。

私の論旨としては「とりあえずもう学校に行くのはやめたい」ということで、頑なにそれだけを伝えました。

こうしたことは私の人生でも初めての経験で、自身に何が起こっているのかは一切わからず、パニック状態でした。急に行きたくなくなった理由を自ら整理して誰かに伝えることなんて、当時の私にはとてもできませんでした。

しばらく経った頃、担任の先生が家にたずねてくるようなこともあったかと思います。そうした話し合いの場でも、私は自分の気持ちも何もかもが相変わらずわからないままであり、ただイナゴの大群のように目の前を埋め尽くす「行かない」という気持ちを表明して、あとは押し黙って時間が過ぎるのを耐えることしかできませんでした。私は「かたくなる」しか覚えていないコクーンであり、すべてのターンで「かたくなる」を重ねがけし続けることしかできない状態でした。そうした自身の言動によっても、さらに追い詰められていきました。もはや勉強どころではなかったので、勉強も完全に放棄していました。そうして学校へ戻る希望も意欲もきっかけも、何もかも、さらに失われました。

それでも、少しでも納得できる理由を周りの人たちからは求められ、同時に私自身も自分がこうなっているわかりやすい理由を欲していましたので、前回書いた「コミュニケーションの一環でムードメーカー的な子からいじられていた」ことを誇張して「いじめを受けていた」というストーリーをでっち上げてしまいました。

そうすることでしか、当時はその場をしのげませんでした。

後日、その「いじってくれていた」彼から、家に電話がかかってきたことがありました。昼間は家に私一人でしたので電話に出たところ、彼は名乗らないまま私であることを確認だけしてフランクに話すので、そのまま少しだけやり取りをして、「本当に誰なの?」と聞いたところで、しばらく名乗るのを渋っていた彼がついに名乗り、名前を聞いた瞬間、私は心が一気に凍りつき、電話を切ってしまいました。

本当に彼には、申し訳ないことをしたと思っています。自分が原因で不登校になった相手(おそらく彼は何らかの形でそう伝えられていたのでしょう、嘘なんですが!)にも関わらず、「いつでも帰ってこいよ」的な意図で電話をくれました。家に電話をくれたわけですから、当然大人の差し金があったことでしょう。ところが、名乗った瞬間に切られてしまった。

「ああ、やっぱりオレが原因だったのか」と彼は感じたかもしれない。

不登校の口実に利用したうえ、周囲も私自身もすっかりそうだと思い込み、さらに直接電話までさせてしまい、まさか電話が来るなんて思ってもいなかった私としては最悪の対応を取ることになった。

無関係の彼の名前を挙げたことによって巻き込んでしまい、彼に被害をもたらしていました。

雰囲気で行くことになった学校を、雰囲気で行かなくなり、場当たり的にそれらを押し通していく中で、次から次へとどうしようもない状態に陥っていきました。当時の私に唯一思いつき、可能だった行動とは、目につく全てのシャッターを下ろして亀のように閉じこもること、前述のとおり「かたくなる」を毎ターン念入りに重ね続けることだけでした。

<次の話>

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