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2年連続日本一の高校牛児 強さの理由は自律的な飼養管理

和牛を育てる高校生「高校牛児」の日本一を決める大会で2連覇している高校生たちがいます。その強さの理由は、高校生自らが課題を見つけて改善するという自律的な飼養管理。その姿を、ぜひ読んで知ってほしいです(目的意識をしっかり持った高校生たちの日々の努力を知ったら、「私ももっとがんばらねば」とやる気が出ること間違いなしです!)。

和牛肥育の強豪、市来農芸高校

全国には、授業や部活動の一環として牛を飼育している高校生「高校牛児」がいます。野球であれば全国の球児が高校野球で競うように、高校牛児が生産した和牛の肉質や取り組み内容で日本一を目指す大会があります。それが和牛甲子園。その和牛甲子園で昨年と今年、連覇している強豪校が市来(いちき)農芸高校です。同校は鹿児島県いちき串木野市にある農業高校で、昭和9(1934)年に開校した歴史ある学校。国語や数学のような普通科目に加えて、農業の専門知識も3年間でしっかり学びます。卒業生は大学に進学してさらに深く農業を学ぶほか、鹿児島県内の農業や食品の分野で就職して活躍しています。

365日、和牛に向き合う畜産部

同校で和牛を飼育しているのが畜産部。野球や吹奏楽などの部活動のひとつで、和牛のことをとことん学びたいという意欲を持った生徒たちが集まり、部員13名で和牛を含む約80頭の牛たちを飼っています。

和牛の飼育には、餌やりや牛舎の掃除、糞(ふん)の除去などの世話が毎日必要です。それらの仕事は、決して単純な作業ではありません。餌やり一つとっても、牛の成長に合わせて餌の量や種類を変える必要があります。

そして和牛を飼育することの集大成が肥育(子牛を出荷まで大きく育てること)です。高品質な和牛肥育のためには、牛の足腰を鍛えるための引き運動(牛を人間が率いて歩かせること)やブラッシングなど、飼育管理に加えてさまざまな仕事があります。部員たちは、平日の朝と放課後そして休日もそれらの仕事を実践し、始めは先輩から教わりながら、膨大な量の知識と技術を学んでいきます。

牛目線で隅々まで観察し、牛がリラックスできる環境づくりを

部員たちが心がけているのは、牛がリラックスできる環境かどうかを牛目線で観察することです。例えば和牛がつまずいてケガをしないように牛舎の床を平らに保つこと。水を自由に飲めるように水飲み場を清潔にすること。牛は言葉が通じない分、私たちがよく観察して気づいてあげたい。そんな想いで毎日、全員が牛と牛舎を観察して情報共有し、状態が悪ければ原因をさぐって改善し、牛にとって快適な環境を保っています。

先輩から受け継がれた牛を出品する大会、和牛甲子園

和牛甲子園では、和牛の育て方や工夫の発表と、育てた和牛の肉質が併せて評価されます。和牛が肉として出荷できるまでに必要な期間は約2年半です。つまり和牛甲子園で評価される和牛は、大会の2年半前に生まれた牛。したがってその牛は畜産部の先輩が育て受け継いできた、先輩の想いもこもった牛なのです。和牛甲子園はそのバトンを受け継いで結果を出す、非常に大切な大会だと部員たちは話します。

健康な牛づくりを目指し、連覇の栄冠

市来農芸高校の畜産部では、2021年1月に開催された第4回和牛甲子園に向けて健康な牛づくりをテーマとして肥育してきました。その理由を尋ねると、「美味しい肉というのは、健康で伸び伸び育った牛。その結果、消費者にもおいしい和牛を届けられると思います」とのこと。細やかな観察による健康な牛づくりと、その結果としての高品質な肉質が評価され、今大会の優勝につながりました。

自律的な飼育が、高品質な和牛を育む

きめ細やかな観察により健康で高品質な和牛を育てている市来農芸高校 畜産部。肥育の中で見つかった課題はすべて部員が自律的に見つけて改善しています。

例えば、肉質について。昨年の和牛甲子園で出した和牛は「オレイン酸含有量が低い」という課題が判明しました(オレイン酸含有量が高いと風味や脂のくちどけがよくなります)。今年の大会に向けては、部員自らオレイン酸含有量の高い食品を調べ、きな粉とトウモロコシをエサに添加することを決めました。その結果、今年の和牛甲子園では昨年以上に肉質が評価されました。

部員自身が課題を見つけて、解決案を考え、実行。作業を命令されてやるのではなく、部員たちが自律的に和牛肥育に向き合っているからこそ、高品質な和牛生産ができていました。

地元の和牛「鹿児島黒牛」の発展のために それぞれの立場から貢献していく未来

部員たちに将来の夢を聞くと、和牛の生産者になりたい生徒、生産者を支える農協の指導員を目指している生徒、農業教諭となり次世代に和牛肥育のすばらしさを受け継いでいきたい生徒など、さまざまでした。それでも共通していたのは、地元の和牛「鹿児島黒牛」の発展に貢献したいという想いです。多様な立場から、地元の和牛生産に貢献していく。そんな使命感をもった部員たちの姿は本当に頼もしく見えました。