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“電動ネコ”をみかん農家が続々導入!人力だった猫車を電動化する大人気テクノロジーの裏側には農家参加型の開発があった

猫車(ねこぐるま)ってご存じでしょうか?子どものころ田舎のおじいちゃんのうちで荷台に乗って農地を走り回り、バランスを崩してあぜ道に転げ落ちた記憶、皆さんにもありますよね?(え?ない?)

猫車は手押し車ともいわれ、土砂などの荷物を人力で運搬する道具です。由来は紀元後2~3世紀の古代中国だそうです。こんなに技術が発達した現代でも、世界中の土木・農業の現場で使われており、車が入れない狭い道や、整地されていないデコボコの道で荷物を運ぶ際に大活躍しています。

そんな2千年近く変化して来なかった猫車に、「電動化」というイノベーションをもたらしたのが㈱CuboRex(キューボレックス)です。今回は㈱CuboRexの寺嶋代表に、開発の裏側をお聞きしました。

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㈱CuboRex 寺嶋瑞仁 代表

聞き手はJA全農広報部 note編集部員Yです。

猫車の電動化でみかん農家の作業を楽に

Y)株式会社CuboRexについて教えてください。
寺嶋さん、以下「寺」株式会社CuboRexは、既存の猫車を電動化するキット「E-Cat Kit(イーキャットキット)」を2020年10月からJAありだを介して、主に和歌山県内で販売しています。2021年2月時点で和歌山県内のみかん農家を中心に販売台数100台を達成しました。この実績を元に、3月以降全国展開を目指して事業を実施していきます。

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ミカン収穫で使われる猫車を電動化

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手持ちの猫車にキットを装着すれば電動化できる

Y)使用されたお客様からどのような反響がありましたか。
寺)全員がおっしゃるのは「運搬作業が楽になった」という事ですね。また、「E-Cat Kit」特有の感想だと思うのは、「こういうのが欲しかった」という方が多いです。「こういうもの」とは、自分で欲しいものを自分で実装できるところです。

Y)時間的にどれくらいセーブできたとか、労力的にどれくらい楽になった、などの感想はありますか。
寺)お客様からどれくらいという感想は出ていないのが実態ですが、CuboRexでは、運搬業務にかかわる労力は約半分以下、運搬にかかわる作業時間は2/3程度と言っています。

はじめに興味をもってくれたのは若手農家

Y)使用者の年代の特徴はありますか。若い方も楽になったというような声はありますか。
寺)「E-Cat Kit」の特徴ですけれど、若い方の使用率が高いです。「高齢者にいいよね」というお声はよくいただくんです。ただ新しい製品で、高齢者から普及が広まった製品は果たしてどれだけありますか?特に農業機械の分野で、高齢者から普及が出発した製品について思いつきますか?高齢者の方にも使っていただいてはいますが、若い方を中心に利用いただき、そこから効果を実感して高齢者の方に普及が広がりつつあるというのが実態です。

Y)それはとても面白い話ですね。そこを深掘りしたいんですけれど、もともと御社が和歌山に出先まで出して発売し始めたときの最初にきっかけとなった生産者の方のお話についてお聞かせください。
寺)いいところを聞いてくれますね。実は私が和歌山県有田地域の出身で、最初は年齢関係なく営業をしていたのですが、実態として一部の例外を除いて購入意思決定をしてくれたのが若い方ばかりでした。最高年齢でも40代でしたね。ほとんどが20代でした。

Y)わかりやすいくらいのイノベーター理論みたいな感じですよね。
寺)本当に。地域におけるイノベーターまたはアーリーアダプターみたいな人ばかりでした。

Y)そういう方にリーチできたのは、和歌山に拠点を持てたという事が大きいのではないですか。
寺)そうですね。全国いろいろ行脚させてもらっていますが、和歌山は若手が多い地域なんだなと思いました。新規就農者も一定数いますし、後継者の方も多いですね。

50~60代の農家にも普及した理由は、地元JAのサポート

Y)今100台と仰いましたが、キャズムを超えて、年代的に50~60代の方も最近は興味を示していただいているという実感はありますか。
寺)とてもありますし、それを超えるために重要なピースがひとつありました。それはJAの協力です。農家さんが農業機械を買う時、真っ先に考えることは何だと思います?

Y)価格・性能は当然のことながら、メンテナンスですかね。
寺)そうです。その通り。今回、地元のJAさんにメンテナンス部分を担っていただいています。「E-Cat Kit」の特徴は、買ったら使える製品ではなく、組み立てや相性を見る作業が必要になることです。だからこそ作業内容や適用性の幅を持たせる事ができるんですが。例えばスマートフォンも買ってもすぐに使えないじゃないですか。買った後にアプリをダウンロードしたり、設定をしたりしてようやく自分にとって使いやすいものになるように、「E-Cat Kit」もまったく同じなんです。若者は簡単にできると思いますが、高齢の方はなかなか自分で設定をするのは苦手な方が多いですよね。

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組み立て中のE-Cat Kit

ベンチャー企業との協業は、不完全でもまずは「やってみる」精神が大事

Y)この中での学びに繋がるかもしれないんですけど、御社のようなベンチャー企業と一緒に取り組む上で、JAに持ってもらいたいマインド、今欠けているものなどはありますか?実際私も別のスタートアップの支援を行っていると、たいがいのJAは完成されたソリューションを持ってこいと言うことが多いですよね。
そうではなくて、一緒に作っていこうという姿勢が大事じゃないかなと。ベンチャーは、技術的なリテラシーは高いですが、農業についてはリテラシーが高いわけではないので、それを一緒にすり合わせたり、地域性などをアジャストしていうというところを、一緒に作っていこうという姿勢が大事なんじゃないかなって思っているんです。今回の学びの中からJAに持ってもらいたい姿勢やマインドについてお聞かせください。
寺)何も説明することがないくらいそのとおりですが。まずは実態を説明します。ベンチャー企業と仕事をするうえでJAさんに持ってほしいマインドは、「共同でやっていく意識」ですね。現実的にJAさんに「実験させてほしい」というのは難しい。まずはサービス、製品として最低限形になっていないと組合員さんへ説明しにくいという事情は理解します。しかし、完全なものではなくてもまずは「やってみる」という精神は持ってほしい。それがないと農家の求めるソリューションができるのは5年後とかになってしまいます。

ユーザーとメーカーは、一緒に製品を育てる開発仲間

Y)御社のFacebookを拝見していて思ったのが、「バッテリーの位置ってここよりもこっちのほうがバランスいいよね」などの農家のダイレクトな意見があって、それに対して寺嶋さんが「すごいいいアイディアですね!」と回答していたり。ユーザーサイドが「E-Cat Kit」を一緒に育てていくような意識があって、未完成の製品をみんなでいいものにしていって、柑橘産業や農業全体をよくしていこうというような参加型のプロダクトになっているというのが素晴らしいなと思うんですよ。
寺)それはうちのプロダクト全ての特徴です。そこを取り上げてくれるのは開発者としてはすごくうれしいです。大企業の開発の在り方とは全然違います。

Y)寺嶋さんたちが、未完成な状態という事を認めるメーカーがいて、それを認めるユーザーがいて、一緒になって未来志向で作っていってるみたいなことですかね。
寺)だいたい合っています。その上で補足させてください。僕たちのスタンスは、購入者・利用者の皆さんは、僕たちからすると開発仲間です。僕たちの製品には、僕たちメーカーが出した段階ではまだ完成していません。どんなにクオリティが上がろうがです。利用者が必要とする用途に合わせて実装して利用できて完成とするという概念感なんですよ。その過程でユーザーがわからないところや工夫したところが出てきて、それを一緒に共有してよりよいTRYに繋げるようにしている。メーカーである僕たちが学び取って基幹となる製品にフィードバックしているというところですね。従って、大企業さんがこういう製品はこういう用途で使ってくださいというのは当たり前の状況下で、僕たちは明確に用途を示すことはなく、ユーザーサイドが示すべきものであるという概念感があります。

Y)そこにSNSを使ってリアルタイムにユーザーの意見をフィ-ドバックしながら開発をするというのがすごく面白い「イマ的」やり方だなと思うんですよね。
寺)確かに言われてみると他の開発企業がSNSを開発の主幹的位置づけで使用しているところはあまりないですね。単純に僕が好きだからっていうのもあるんですけどね。僕自身がSNSをしながらものづくりをするのが当たり前の世代なので。

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E-Cat KitのFacebookグループに投稿された
ユーザーによるカスタマイズ事例

E-Cat KitのFacebookグループはこちらです。
ユーザーとの実際のやり取りをご覧いただけます。
https://www.facebook.com/groups/291302278625519/

ユーザーが主役になる自由度の高い製品を、みかん農家以外にも広めたい

Y)今後の展望をお聞かせください。今後こういう分野に行きたいとか、今は柑橘の産地を中心に設定されていると思うのですが、今後こういう分野に行きたいとか、こういうプロダクトを作っていきたいとかありますか。 
寺)私たちは今、「E-Cat Kit」には柑橘分野で普及を始めています。今後は柑橘の分野だけでなく、農林業、畜産業などの分野に「E-Cat Kit」を普及していきたいです。既にその種は蒔いていて、林業利用していたりとか、ミカンや桃の苗木を作るための苗木屋さんが肥料散布用に使用したりしています。最初からこのような利用は想定していて、わかりやすく猫車からスタートしたんです。でもこれは実際は不整地で活躍する車輪関連全般に実装できるシステムなんです。僕たちが掲げている製品のあり方が、「不整地で使えるガチなレゴ(ブロック)」。この社会実装によって不整地で活躍される方々農家や林業関係者、雪国の方たちが欲しいものを自分たち自身で作って試せるというのが僕たちの事業のあり方です。

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補助輪つきコンテナ台車に E-Cat Kitを装着した事例

Y)以前寺嶋さんは、自分が欲しいものを自分で作れる世界にしたいと仰っていましたよね。みんながアイディア出し合っていいサービスを、メーカーだけじゃなくユーザー側も一緒になって参加型で作っていく。それって素晴らしい世界ですよね。
寺)ユーザーが当事者としてほしいものを目指せる世界ですから、それは早く確実性が上がりますよね。失敗も成功も開示しあって。メーカーサイドもよりよいものに繋げるための情報が多くなるわけですよ。
大企業あるあるなんですけれども、自分が作ったものがどういう風に使われているかが意外にわからないケースが多くあるので。

Y)想定と違う使い方をされると、普通のメーカーは嫌がるけど。
寺)そうですね。僕たちなら全力で喜びますが(笑)。

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Y)ユーザー側が主役になっているという自由度の高い製品、素晴らしいなと思っています。
寺)ソフトウェアですとそういう文化もだいぶできてはいるんですけれども、ハードウェアですとなかなかないですね。おかげさまで開発者のひとりとして僕は楽しませてもらっています。

Y)実際、全国に出ようと仰っていましたが、東北とか南九州とかで製品をぜひ欲しいと言われた時に、いつくらいに手に入るものなのですか?製造体制の関係、メンテナンス状況等によると思いますが、例えばモノだけ欲しい、メンテナンスはするという場合はどうでしょう。
寺)3日以内です。今も弊社のオンラインサイトを通じて注文をいただいていますが、一番遠隔地は北海道ですね。

Y)インタビューの最後にひと言お願いします。
寺)僕はJAという組織に対してとてもリスペクトしていて、JAがなければここまで「E-Cat Kit」は成長できなかったと思っています。今後はますますJAが率先して試してみようというスタンスを持ってほしいと思います。
ベンチャーの製品は市場に出てきた段階ではほぼ確実に未完成です。そうした時に、じゃあ駄目だねと言われたら、いくら頑張っても無理なんです。一緒に育てていくという姿勢を持ってもらいたいという事です。JAが農家さんと綿密にかかわっていらっしゃるのは本当にすごいです。農家の育成も含めてさまざまな機能を発揮してより良い産地にしていくという取り組みは、JAさんだからこそできると思います。
Y)
今日はありがとうございました!引き続きJA全農でもサポートさせていただきます!

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本インタビューは弊会のオウンドメディアであるJA全農ウィークリーでインタビューした内容を、ロングバージョンでお送りしました。

【AgVenture Lab発 スタートアップ インタビュー】
手押し車を電動化する「E─Cat kit」を製造開発 
株式会社CuboRex 寺嶋瑞仁代表
https://www.zennoh-weekly.jp/wp/article/11710

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<編集履歴>
2021年3月16日 「ユーザーとメーカーは、一緒に製品を育てる開発仲間」の項目末尾にFacebookグループページへの案内を追記しました。