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逆噴射小説賞応募作

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物語の『書き出し』だけの小説賞。 逆噴射小説賞に応募した作品をまとめたマガジンです。 ※第一回賞は400文字、第二回賞は800文字の冒頭のみです ※ごく一部の作品を除き、続きは… もっと読む
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記事一覧

リビングデッドの魂

 鼓膜を突き破るような轟音で、弾丸は『能無し』の頭部を破壊した。  人形の様に倒れる男の体を見下ろして、十二歳の少年は深く息を吐く。 「残念でしたね、坊ちゃん。小遣いで何とか雇った護衛なんでしょうけど」  少年の目前には、鋼鉄の右腕に拳銃を握った大男が立っている。  機械の義手だった。最新鋭の機械腕は拳銃ともリンクしており、自動補正される銃口は、並みの人間とは比較にならない精度で対象を睨む。  先刻は役立たずの護衛の頭。そうして今は、少年の頭。逃げる術が無い事を悟りながら

逆噴射小説大賞2021、奨励賞を獲得しました!

小説の冒頭800文字で挑む賞、「第4回逆噴射小説賞」の結果発表が本日2月28日に行われ、拙作『玄獣狼、吼える』が奨励賞に選ばれました。やったぜ!!!!! 賞に関する説明は、主催者であるダイハードテイルズさんの記事を参照していただくとして。まずは奨励賞を戴けたこと、嬉しく思っています。 ありがとうございました! noteでの結果発表・コメンタリー記事は三月に公開されるという事で、どのようなコメントを戴けるのか、また今回まだ発表されていない最終選考作品にどのようなものがあるの

玄獣狼、吼える。

 獣とて、剣に焦がれることはある。  山の主を喰い殺し、妖魔さえ己が獲物とした魔狼は、その日生まれて初めて自身の脚より迅く、自身の牙より鋭いモノを見た。  近くの国に名を轟かせる剣豪、武路譲羽の剣である。  魔狼の牙を凌ぎ、駆ける爪に先んじて繰り出される斬撃に、魔狼は美しい黒毛を幾度となく裂かれた。けれど譲羽は魔狼の返り血さえ浴びることなく、涼しい顔をして月下に立っている。  魔狼は思った。この人間に勝つことは出来ない。  であればせめて。この山で最強を誇った牙の持ち主と

屍滅鉄騎クソだる日記

 ヒトをゾンビ化するウイルスを放ったのは、世を儚んだオッサンなのだと言う。  曰く、世界はどんどんと悪くなる一方であり、未来に希望などは無いらしい。  だから全てを滅ぼして、最初からやり直してしまう方が人類の為だとか。  そんなオッサンの言葉に世の多くのオッサンオバサンが迎合して、自らゾンビウイルスに感染して他のオッサンオバサンをゾンビ化していった。  テレビでいつも文句言ってるオッサンはそれが政府のせいだとか言ってキレて、ウイルスを撒いたオッサンは被害者なのだと言い出して

探偵玩具デュエロイド

「なぁ、そこ退いてくれねぇかな」  塀の上。でっぷりと太った白猫を見上げて、オレは立ち往生していた。  猫は大きな瞳でじっとオレを睨んでから、大きな欠伸を一つ。  こいつらは基本的に、オレのような小さな玩具の言う事になど興味が無い。 「確か鉄斎……だったか? 頼む、近道なんだ」  名前を呼んでやると、鉄斎は少し驚いたようで目を見開くが、動きはしない。  無理に飛び越える事も出来るが、今は避けたかった。  電池が消耗している。有事に備えて、残量は減らしたくない。 (その

金剛石《ダイアモンド》の弾丸籠めて

「いいか? 撃てる弾は五発だけだ」  彼の声は、脳に直接響いてきた。  軽薄な、いつでも笑いの混じった高い声。  悪魔、と名乗られた時、だから私は驚きはしなかった。 「五発分は契約しちまったからな。アンタにも撃たせてやる」 「でも貴方、リボルバーなのでしょう? 六発目が撃てる筈じゃない」 「ギャハッ! 確かに、確かになァ! アンタ頭良いぜェ!」 「……馬鹿にしている、のかしら」  溜め息が出る。馬鹿にされるのは嫌いだった。  叶うのならば、この悪魔の宿った拳銃を、井戸の

I・F ライフアシスト疑似人格イマジナリー

「とりあえず、撒けたか?」 『近くにはいないね。でも、モードが解除されない……』  夕方の街。暗い路地裏でしゃがみ込むオレに、スタッグは言いにくそうに答えた。  顔を上げると、確かに視界の片隅には、戦闘中を示すウィンドウが残っている。 「ってことは、まだどっかにはいるのか」 『ごめんね、トウマ。何か変なんだ……』  宙に浮いていたスタッグが、俺の隣に降りてくる。  オレより少し低い身長の、クワガタモチーフの人型デザイン。  子どもっぽい声もその仕草も、普段と何一つ変わらない

息苦しくも生きて行く

(……何を間違えた?)  荒い呼吸を繰り返しながら、俺は曖昧な自問自答を続ける。  弟に酸素マガジンを渡した事。それは正しい行いだったはずだ。  今の配給酸素じゃ、次の発作で確実に息の根が止まる。  けど、そのせいで今度は俺の酸素が足りなくなった。次の配給どころか、三日後には自然呼吸もままならなくなるだろう。 (だから、ここへ来たのは間違いじゃない)  思った途端、熱い光線が頬を撫でる。  チリ、と嫌な音がして、激しい痛みが顔を襲った。 「っが……!」 「はいはい、足を

刀鬼、両断仕る

 夜明けから間もなくの、曇天。  山と山の狭間に開けた草原に、つんとした血の匂いが漂う。 「……あぁ、良いな」  小さく、男が呟いた。  返り血に全身を染めた男は、薄暗い空に己の得物を掲げる。  白銀の刃は一点の汚れも無く、鞘から抜いたばかりかのように煌めいていた。  けれど……そうでは無い。 「ぅ……ぁぁ……」 「さて、お前で最後だ」  血濡れの男は、目前の武士へと声を掛けた。  大鎧に身を包む彼は、青白い顔で震えながら、覚束ない手付きで弓に矢を番える。 「化け物、め…

最後の弾丸は誰を撃つ

「看板が読めなかったのか? 殺しはお断りだ」 「無意味な標語だな。まだ天国へのチケットが手に入るとでも?」 「まさか。死体の生産業にウンザリしただけだ」  尊大な態度を取るスーツの男に、ジュードは敢えて面倒そうな態度を見せる。  実際、ジュードはここ十年一度も殺しの仕事は受けていない。  というより……受けられないのだ、本当は。 「他を当たってくれ。いくら積まれても俺はやらない」 「それでは困る。この街で一番のガンマンはお前だろう」 「それは、そうだが」 「断るというなら

☆螺子巻ぐるりによる逆噴射小説大賞投稿作品のまとめ☆後編

第一回逆噴射小説大賞という名の銃撃戦から数日経った。 跡に残されたのは、思う存分弾丸を出し尽くした者、心の籠った数発を残していった者、ばらまかれた弾丸を拾い集める者。 そして、力及ばず戦場から姿を消してしまった者……だ。 要するに、もっと投稿するつもりだったけど体力がダメだった。筆者はそんな心残りを残しつつ戦いを終えた。 だが、それでもまだ筆者には最後の一仕事が残っている。それがこの記事、個人的まとめ【後編】だ。それではどんどこ紹介していこう。 十三作目。代用品の『

ロールプレイ・ライフ

 大昔の創作物には、やたらと「限りある命を美しく思う」という価値観が描かれている。不老技術の進歩していなかった頃だ。  命には限りがあるが、だからこそ人は懸命に生き、輝く。  そして子や生きた証を残すことで、その命は永遠と等しくなる……など。  今や、その価値観を理解出来る人間は殆どいない。  人間は死なないからだ。魂はデータ化され、肉体は復元可能なただの乗り物と化した。不慮の事故に遭ったとしても、保存された最新のデータを基に復元される。  だからこそ、だろう。  RI

ブレイクカード・プリミティブ

 人生の価値はカードで決まる。  強いモンスターを封じたカードがあれば戦いに負けないし、便利な能力を持つモンスターなら生活や商売に役立てられる。  それで得た金で、更に良いカードを手に入れる。そのカードで更にカードを得て、更には……  ……要は、強いカードを持っていない人間は駄目ってことだ。  中途半端でもいけない。下手に強いカードを持っていても、より強い者に奪われて弱者に逆戻り。俺の父がそうだった。  巨人のカードで広い農園を耕していたのに、そのカードに目を付けられ……

ゴースト専用職業案内霊能係

 人口の減少により少なくなった労働力を確保するため、政府は秘密裏にある組織を編成、ひとつの計画を打ち出した。  幽霊の疑似復活である。  彷徨う地縛霊や浮遊霊に、精巧なシリコンの肉体を提供。憑りつく事で疑似的な復活を遂げさせ、彼らを労働力として派遣するのである。  一見完璧かに思われたこの計画だが、始動して間もなく、とてつもない問題が経ち塞がった。 「え、労働? いや、働くのは嫌かな……」 「恨みとか晴らしたいけど……サラリーマンに戻るのはちょっと……」 「アアアアアア