見出し画像

「いまの仕事の進め方、正しいですか? それとも間違っていますか?」(第14回)

土木技術者 木村 善信

 「その仕事の進め方、正しいですか?」の問いには、従来の施工方法、業務手法だったとしても、これまでの答えは「正しい」です。
 公共土木工事を例にすると、“工事は、工事契約書、特記仕様書、図面、現場説明書及び質問回答書、工事数量総括表に必携の『土木工事共通仕様書』を加えた契約図書に基づき、定められた期限内に要求される性能、品質、出来形を担保した施工が成されなければならない”となります。そして、完成
検査で合格とされ、発注機関に引き渡たせる施工を行ったのであれば、結果としてそれは「正しい」仕事だったということです。
 ただし、要求に応えてきたこれまでの「正しい」は、それを可能とする技能者、技術者など工事に携わる皆さんが、それなりに居てこその「正しい」だったわけです。
 しかし、これからはどうなのでしょうか。
 我々を取り巻く情勢は、全産業において人手不足、人材不足が必至の状況であり、近頃建設業でも、如実にその傾向が現れていますが、このことを踏まえると「その仕事の進め方、正しいですか?」の問いには、「人材の減少が明白ならばNo」とその答えは変って来ます。

 仕事の進め方(手段)を変えなければ「正しい」結果が得られなくなるということは、つまり、人材の減少を何かの手法で補う必要があるということになります。
 昨今、建設現場を中心に普及しつつある『ICT施工技術』は、その補う手法のひとつだと言えます。ここで忘れてはいけないのは、『ICT施工技術』を使うことが「正しい」のではなく、『ICT施工技術』を正しく使った結果として、一連の業務が効率化してはじめて「正しい」手段となるということです。

ICT施工技術(土工)一連の流れ

前述したように、厳しくなるあるいは既に厳しい条件下において「正しい」結果を得るためには、効率的な業務手法や業務を効率化する工夫、有用な道具が必要となるわけですが、今のこの時代には、役に立つ様々なシステム、ツール、アイテムが既に存在しています。
 この今どきの恩恵にあずかれるかは、まさに「その仕事の進め方、正しいですか?」と自問し現行のやり方に疑問を持つこと、そしてそれをどう改めるかに気付けるかどうかで決まります。いくつか例を挙げると、
疑 問1:過去の施工計画書を参照するのに、その工事担当者にお願いしないとできない?
 改善案1:一定ルールの下、保存データが社内で共有化され、必要なデータを自由に利用
疑 問2:電子データなのに紙データで確認? そのために印刷、ファイル、インデックス?
 改善案2:電子データはモバイル端末等で確認(確認用の紙データ作成が不要に)
疑 問3:丁張掛け、位置出し、段取り替えの都度の測量計算が大変、何とかならない?
 改善案3:3次元設計データを作成(都度の計算業務が不要に)
 これらは全て現実に改善済みの事例ですが、今はこのように「変えられる」時代です。

カナツ技建工業株式会社のXアカウント

 改善への第一歩は現状にギモンを持つことです。二歩目でそのギモンに対して理想や希望の姿を描きます。そして、三歩目には実現するための情報収集と発信が必要になります。
 今は、インターネットの普及により、知りたい情報をいつでも、どこでも、誰でも簡単に調べることが出来る時代ですが、無限とも言える情報、様々種々雑多な選択肢の中から、改善に最も適したツールを探し出すには、一個人や一部署、一事業所等の検索、取捨選択の判断だけでは心許ないとも思える時代ともなっています。
 そこでソーシャルメディアの利用です。
 我々の部署でも、勧められて昨年から始めたのですが、地理的ハンデが無く日本中、世界中の同業者、同様の興味や関心を持つ人達とのコミュニケーションが可能なSNSならば、身近に感じられる様々な先進事例や関連情報と出会うことになり、欲する情報、核心に迫る情報に辿り着きやすくなりました。
 さらにSNSを効果的に使うためには、そこで生まれた繋がりを生かしたコミュニティの形成が重要です。
SNSへの投稿を検索すれば、参考になる情報、有用な情報がある程度収集可能ですが、より多くの情報、より詳しい情報、生の声などのよりわかり易い情報を得るためには、自らも積極的に情報発信することによる、コミュニティの形成をお勧めします。

X投稿その1
X投稿その2
X投稿その3
X投稿その4
X投稿その5
X投稿その6

 仕事の進め方の改善、新たなシステム等の導入などには、その適否の判断を含み何かしらのリスクを伴いますが、軌を一にするコミュニティが形成されていれば、多くの仲間から有益なアドバイスが貰えるようになり、少なからず気付きがありますので、比較的楽に的確な決断に辿り着けます。
 そして、建設業にとっては変革への過渡期と言われるこの時代、「その仕事の進め方、正しいですか?」の意識醸成、溢れる情報の中からの最適の選択と適用、有用なツールを正しく効果的に使いこなす新たなスキルが必要となっています。
 ここからは、我々が最近のフィールドにおいて、「その仕事の進め方、正しいですか?」に応えた最適化の取組について紹介します。
 現在、我々の現場では、現地で計測取得したデジタルデータをクラウド共有サーバーにリアルタイム転送し、離れた場所のPCで処理するデジタルツインの環境が設定出来ます。
 そこで、この有用な先進技術を活かそうとすれば、従来の業務方法に対して「その仕事の進め方、正しいですか?」となるわけです。
 紹介する事例は、「出来形管理における出来形確認方法」の最適化に向けたカイゼンです。
 現行の確認方法は、現地で計測取得する出来形値がデジタルデータであっても、帳票や図表に記した出来形値、偏差、規格値との較差等の数値やグラフでの確認となるため、折角のデジタルデータを指定帳票に数値入力し、わざわざアナログ情報に置き換えています。

転送された3次元出来形座標ポイント
従来の出来形管理表による確認

 このおかしな現実(ギモン)に、「クラウド共有サーバーへ転送された出来形計測データが規格値内であることを、一目見て確認出来ればOKなはず」という発想が生まれ、折角のデジタル情報の利点を損なわず、簡単に確認出来る方法は如何にと思案した結果、『規格値の見える化』に辿り着きました。
 例えば、杭の出来形管理基準の規格値(基準高±50㎜、偏心量100㎜)

手順 その1:規格値の範囲を3次元化した円柱形状の3Dモデルを作成し、クラウド共有サーバー、点群処理、BIM/CIM等のシステム上に置いた3次元設計データの杭頭中心位置(設計)に配置。(規格値の範囲の3Dモデルの仮称:規格値スペース)

規格値スペース(基準高)
規格値スペース(偏心量)
点群処理システム上に配置した規格値スペース

手順 その2:施工現地にて、杭頭中心の出来形をトータルステーション等により3次元計測し、3次元座標値をデジタルデータとして取得。

杭頭中心出来形計測
計測座標保存
自動追尾型TS

手順 その3:取得した3次元座標データをクラウド共有サーバー、点群処理、BIM/CIM等のシステムに取込み、出来形座標ポイントの位置を確認。そのポイントが、規格値スペース内にあれば規格値を満足、規格値スペース内のどこにあるかで出来形を評価。

計測座標取込み
出来形座標ポイント確認(偏心)
出来形座標ポイント確認(基準高)

 この方法なら、規格値スペースにより2つの管理項目を視覚的に同時確認できます。
 さらに、デジタルツイン環境であれば計測時点で出来形管理業務が完了となる上、現地立会は当然不要、遠隔臨場においても受発注者共に効率化し楽になると容易に推測できます。
 なお、独自の手法であるため、当然、一日も早い基準化、標準化を待望していますが、残念ながらまだ実現していません。
 土工や法面工では3次元計測技術を用いた出来形管理により、既に寸法管理から面管理に移行し、出来形管理図表も3次元モデルファイルによる納品が可能となるなど、一貫してデジタルデータとなっています。このように、確実にデジタル活用による業務フィールドが広がりつつありますので、さらなる拡大に期待しましょう。

 最適化への過渡期であるが故に最近では、新しい有用な技術の導入、その対応に注目が集まり、本来目的達成のための手段であったものが目的化してしまう傾向が見受けられます。
 例えば、業界団体を通じて届けられるアンケート調査では、毎年「ICT施工技術を使ったことがありますか?」との問いがありますが、この質問は適切だと思いますか?
 私は「間違っているよな」と悶々としながら、毎年同じような回答を記入しています。
 実態を正しく把握すること、生産性向上を促すことが目的なのであれば、本来の質問は「生産性向上・業務効率向上の工夫、具体的な取組を行っていますか?」ではないでしょうか。
 また、ICT活用とか建設DXという心地いい響き、まぶしい輝きは、さも道標の様に感じてしまいますが、そこは灯台下暗し、普段の仕事の足元にこそ業務改善の種があり、その種を達成という実りにするための道具(手段)として、ICT等を利用するのです。
 何処かから、誰かから言われたからではなく、「ああこれ面倒くさい」「これ何とかならない?」は改善出来るかもしれないと自ら意識することが、目指すところ(目的)となり、その目的達成へのエネルギーが改善効果を高めることになります。
 このような姿勢でカイゼンに取組むことが何よりも大切であり、その姿勢であるからこそ、過渡期から改革本丸への道(途)を切り拓くことに繋がるのだと思っています。
 さあ、皆さんも肩の力を抜いて、仕事のやり方へのギモンや愚痴(不満)を、建設的に発言する(ぶつける)ところから始めてみませんか?

[全建ジャーナル2023.2月号掲載]

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?