ワーキングクラス

私は大学を卒業して、長野県の小諸市に本社がある日精ASB機械株式会社に入社した。ペットボトルの射出成形機のメーカーである。私にとって日精ASB機械株式会社は思い入れのある会社である。社会人になって初めて入社した会社であり、また統合失調症を発症した時の会社でもある。ASB機械はニッチでありながら世界を相手に事業をしている企業である。若い頃私は海外で働きたいという夢があった。その夢を叶えるにはASB機械は願ってもない会社であった。

入社一年目、工場で研修があった。先輩の手伝いをしながら、射出成形機について多くのことを学んだ。機械を知るということだけでなく、社会を知るということでも多くのことを学んだ。在籍していた2年間はとても濃い時間であった。頭だけではなく、実学であり、身に付いた経験は大きい。

私は工場で働くワーカーでワーキングクラスである。経営の数字はわからないが、機械について多くのことを学んだ。私は文系だったが、機械について知ることは非常に面白かった。ノズルにペット樹脂を流し、ホットランナーでプリフォームを成形する。ヒーターで温度調整をしながら、ストレッチブローでペットボトルを成形する。機械を組み立てるので、成形機にどんな部品が使用してあるか必然的に覚える。私が働いていた時代は射出成形機はライン作業でなかったので、部品を組み立てながら、ペットボトルを成形するのは仕事はきついが楽しかった。



同期の子が書いてくれた絵

在職中、私は社会人になって初めて過ごした2年間だった。一気に駆け抜けたので、若い時はよくわからなかったが、歳を取った今になるとわかることがある。

私はASB機械で働いていた時、工場研修があって本当によかったと思う。機械について何も知らないで経理や営業に配属されなくて良かった。仮に統合失調症を発症した原因が部署異動だったとしても、それはなってみないとわからないものだ。私の背景はワーキングクラスである。経営のことはわからないけれど、機械について、機械を取り巻く背景について知ったことは大きい。たとえば企業の利益について投資について考えることがある。私には経営を見る力はないが、どのような部品が機械に付属しているかわかる。どの部品が消耗品かわかる。またどの部品が代替の効かないものなのかわかる。成形するのにどの部分に手間がかかるかわかる。先輩の外国での経験談から、日本のように設備環境が整っている国は少ないと知る。機械がどのように出荷されるか、パーツ部品がどのような経路で販売されるか知る。そのようなことを突き詰めて考えていくとメーカーはどのように利益を得ていくか考えられるのである。

私はASB機械を統合失調症を発症した時の企業ということが大きかったが、決して失ったものが多いだけの企業ではなかった。私はASB機械を辞めてから、役員宛にメールを送った経緯がある。当社で得たこと、療養中で得たことを活かして、今後にご活躍してください。と返答があった。今となっては面白い会社に勤めていたなと思う。たらればの話になるのは嫌だが、もし統合失調症を発症していなくて、ASB機械に勤め続けていたら自分はどのような人生を過ごしていたんだろうと心残りはあるのは事実である。


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