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ドラッグデリバリーのトレンド2024

最新トレンドを常にウォッチしておくことが、将来を予測し備えるために必要不可欠です。ドラッグデリバリー分野の中でも、エキサイティングな開発を数多く手掛けているUK、Springboard社のTom Oakley氏とKamaal de Silva氏が、開発の立場から2024 年に注目すべき主要なトレンドについて議論します。



「新しいGLP-1が開発中であり、バイオシミラーが市場に投入されることにより、より優れたデリバリーデバイスを開発する大きな機会が生まれるでしょう。」


「体重管理薬」という急成長市場

GLP-1 などの体重管理薬のドラッグデリバリーデバイスは、当然のことながら、すでに多くの業界の関心と資金を集めています。
もともと2型糖尿病の治療薬として開発された GLP-1 ですが、2014年12月に Saxenda(Liraglutide、Novo Nordisk)が承認されて以来、いくつかの GLP-1 が体重管理と減量用途として承認されています (表1)。※1

表 1: 糖尿病および体重管理の適応症における GLP-1 とそのブランド名のリスト

GLP-1 市場は、2021年から2028年にかけて、年間売上高127億米ドル
から6.1%のCAGRで増加すると予測されています。※2
GLP-1 が心血管疾患の軽減などの追加適応症で承認された場合は、この予測を大きく上回る可能性があります。

GLP-1薬のほとんどは注射が必要ですが、経口GLP-1薬もいくつか市場に出回っています。例えば、Rybelsus(Semaglutide、Novo Nordisk)は、2019年9月に米国FDAによって承認され、2020年4月にEMAによって承認されました。※3

市場に投入された最初の GLP-1 では、既存のインスリンペンを再利用、または既存のオートインジェクタープラットフォームを改造したものが使用されました。
現在は新しい GLP-1 が開発中であり、バイオシミラーが市場に投入されることにより、より優れた投与デバイスを開発する大きな機会が生まれています。


クローズドループ・インスリンシステム(人工膵臓)

FDAが2016年にMiniMed 670Gを承認して以来、1型糖尿病の治療用に規制当局によって承認された新しいハイブリッドクローズドループシステム(HCL)がいくつか登場しています (表2)。HCLは、インスリンポンプと連動した持続血糖モニター(CGM)より5分ごとに得られるセンサグルコース値にもとづき、システムが基礎インスリン量を自動調整し、高・低血糖を軽減、血糖値を目標範囲に維持するためのテクノロジーです。
当該システムにおける必須コンポーネントは、CGM、インスリンポンプ、そしてアルゴリズムです。アルゴリズムは、ポンプ自体に実装することも、スマートフォンなどの別デバイスに実装することも可能です。

表2: 欧州と米国で1型糖尿病に承認されているHCL。※4

これらのシステムの開発、検証、立ち上げには膨大な時間がかかることから、独自のいわばDIYクローズドループシステムを開発するチームも現れています。その一例が、#WeAreNotWaiting というキャッチフレーズを掲げる Nightscout プロジェクトです。※5 規制当局の承認を受けていないシステムを使用するリスクについては、2023年1月にTidepool LoopのFDA承認を取得したTidepool などの取り組みによって対処されています。

また、コストの高さもユーザーをDIYシステムに駆り立てる大きな要因となっています。※6
ただし今後数年間で、英国NHSなどの公衆衛生サービス提供者によって承認済みシステムが提供されるケースが増えると予想されています。※7
このユーザーベースの増加により、引き続き2024年には大きな関心と投資が向けられることでしょう。

糖尿病管理の大きな市場は、HCLにおける大きな革新を促進してきましたが、同様の技術が糖尿病以外のさまざまな適応症に適用され、今後自己モニタリングと自己投与が患者(Patients)と保険者(Payer)全体により大きな利益をもたらすことが期待されています。


大容量注射

大容量注射は、いくつかの新しい生物学的製剤の製剤要件と、静脈内注入から皮下注射に移行するといった一部の治療法のトレンドにより、引き続きホットな話題となっています。大容量皮下注射用のデリバリーデバイスには、主に2つのカテゴリがあります。

  • パッチポンプ、ボーラスインジェクター等と呼ばれるオン・ボディ式の
    デリバリーシステム

  • 大容量オートインジェクター

比較的新しいデリバリーシステムの承認例としては、2022年9月にWest Pharmaceutical Services社のSmartDoseプラットフォームで承認されたAlexion社(マサチューセッツ州、米国)のUltomiris®(ravulizumab-cwvz)※8 や、2023年9月にEnable InjectionsのenFuseプラットフォームで承認されたApellis Pharmaceuticals社(マサチューセッツ州、米国)のEmpaveli®(pegcetacoplan)※9 等があります。
そのほか開発中のデリバリーシステムは他にも多数あり、いくつかは既に市場に出回っています。※10

直近の過去1年間の最大の変化、そして2024年の最大の関心事は、大容量オートインジェクター・プラットフォームの出現です。
ほとんどのオートインジェクター・プラットフォームは1mLの固定針をベースとしていますが、近年では2.25mLのものが出始めています。Gerresheimer社の Inbeneo やSHL社の Maggie プラットフォームなど、カートリッジベースのオートインジェクターでは、大容量化の能力が3mLまで拡張されています。

過去1年ほどの間に、Ypsomed社の YpsoMate 5.5 (注射器ベース) ※11 やSHL社の Maggie 5.0 (カートリッジベース)※12 など、いくつかのオートインジェクターファミリーは実に5.5mLまで拡張されました。問題は、これらの3mLおよび5mLオートインジェクターがオンボディー市場をどの程度侵食することが出来るかということです。


眼科領域の注射デバイス

眼内注射には、次のような特定の要件があるため、標準的な注射システムは不適切であることが多いです。

  • 非常に低い粒子制限

  • 吸引なし

  • 眼圧の上昇を最小限に

  • アクセスとターゲット設定の難しさ

  • 少量の投与量と厳密な投与量精度

開発中の眼科用医薬品と、それらに必要な新しいソリューションにより、近年着実にデバイスの革新が生み出されており、2024年もその流れは続くか、もしくはさらに増加すると予想されています。

眼科用薬剤のデリバリー市場は、外用(局所投与)と注射でほぼ二分されているため、注射以外では、点眼器、最近ではスプレー装置などの局所投与も見られるようになったため、そういった領域にイノベーション機会が増えてきています。たとえば防腐剤を含まない点眼器の使いやすさは、押す力を軽減したり、複数滴を落とす可能性を減らしたり、目の位置合わせを補助したりすることが可能になっています。


2024年の新たな開発予算

年度をまたぐうえで、予算変更は重要な課題ですが、なぜ特に2024年にそこが重要視されたか、その理由は、ヘルスケア業界が2020年半ばから2021年後半、あるいはおそらく2022年半ば(「コロナ配当」と呼ばれる)にかけて大幅な好況を経験し、その後市場が調整したためです。

図1: 2000年から2022年までのG7諸国の年間インフレ率。※14

ヘルスケア業界は、2022年半ば以降次のような大きな逆風に直面しています。

  • ロシアのウクライナへの全面侵攻が与えた金融市場と一部のサプライチェーンえの影響

  • エネルギー価格の大幅上昇

  • 高インフレにより賃金やその他コストの上昇(図1)

  • ワクチン、その他のCOVID関連医薬品、個人用保護具、特定の診断薬、救命医療機器など、さまざまなCOVID-19緩和策の販売の大幅減少


「アジャイルな企業は、研究開発への投資を制限し続ける企業よりも、競争上の優位性を持つことが容易に期待できます。」


これらの逆風により、2023年にかけて人員削減と予算削減が相次ぎました。主要経済国ではインフレ率が低下しており(図2)、業界はその他の悪影響要因を修正しているため、2024年には研究開発とイノベーションへの投資が再び増加するだろうという楽観論があります。

一部の企業は企業のアジャイル性を発揮し、2024年に向けて投資を再開しています。たとえば2024年末まで早送りが出来て、その結果を確認できたとすると、これらのアジャイルな企業が、研究開発への投資を制限し続ける企業よりも競争上の優位性を持つであろうことは容易に期待できます。

図2: 2023年から2028年までのG7諸国の年間インフレ率の予測。※15


まとめ

GLP-1の売上は増加すると予想されており、心血管疾患の軽減などの新しい適応症が承認されれば、この傾向は加速すると予想されます。これは、改良された GLP-1のデリバリーデバイスに対する資金と需要が増加することを意味します。

糖尿病向けのクローズドループの診断・デリバリーシステムは成熟しつつあります。関連する原理は、さまざまなユーザーのニーズや技術要件に合わせて調整された新しいデバイスやアルゴリズムを使用することで、他の多くの適応症にも適用できる可能性があります。

新しいオンボディの大容量デリバリーシステムは、規制当局の承認を継続的に得ており、大容量オートインジェクターとの競争に直面しています。
一方、眼科用デリバリーデバイスは、注射デバイスと局所デバイスの両方において、2024年にさらに革新が進むと期待される分野です。

最後に、2024年は企業がコロナ後のヘルスケア販売の調整から抜け出し、経済学者が異例の高エネルギー価格とインフレによる減少を予測していることから、デリバリーデバイスへの投資が増加する年になると見込まれています。引き続き、どの企業がドラッグデリバリーの新たな機会に最もアジャイルに適応できるかは見ものです。


- 参考文献 

  1. “Saxenda FDA Approval History”. Drugs.com, Jan 2021.

  2. “GLP-1 Receptor Agonist Market Will Generate Massive Growth 2022-2028 | Eli Lilly and Company, GlaxoSmithKline plc, Novo Nordisk A/S”. Medgadget, Feb 2022.

  3. “Rybelsus FDA Approval History”. Drugs.com, Jan 2020.

  4. Nimri R, Philip M, Kovatchev B, “Closed-Loop and Artificial Intelligence-Based Decision Support Systems”. Diabetes Technol Ther, 2023, Vol 25(S1), pp S70–S89.

  5. “Welcome to Nightscout”. Web Page, Nightscout, accessed Dec 2023.

  6. Dermawan D, Purbayanto MAK, “An overview of advancements in closed-loop artificial pancreas system”. Heliyon, 2022, Vol 8(11), e11648.

  7. “New “artificial pancreas” technology set to change the lives of people having difficulty managing their Type 1 diabetes”. NICE, Jan 2023.

  8. Kemp A, “Ultomiris approved in Europe for the treatment of adults with generalised myasthenia gravis”. AstraZeneca, Sep 2022.

  9. “Enable Injections Receives First U.S. Food and Drug Administration (FDA) Approval”. Press Release, Enable Injections, Oct 2023.

  10. Oakley T, “On-Body Delivery Systems – News and Trends”. ONdrugDelivery, Issue 137 (Sep 2022), pp 12–16.

  11. “YpsoMate 5.5 – the 5.5 mL large volume autoinjector”. Web Page, Ypsomed, accessed Dec 2023.

  12. “Maggie® 5.0”. Web Page, SHL Medical, accessed Dec 2023.

  13. Oakley T, “Top Five Drug Delivery Trends for 2021”. ONdrugDelivery, Issue 117 (Mar 2021), pp 8–10.

  14. Dyvik EH, “Inflation rates in G7 countries 2000-2022”. Statista, Mar 2023.

  15. Dyvik EH, “Inflation rate forecast in G7 countries 2023-2028”. Statista, Nov 2023.


本コンテンツは、日本オフィシャルパートナーであるzenius株式会社がFrederick Furness Publishing Ltd. が所有・運営しているマガジン『ONdrugDelivery』から許可を得て翻訳・転載したものです。

引用元:Citation: Oakley T, de Silva K, “Drug Delivery Trends for 2024″. ONdrugDelivery, Issue 156 (Jan 2024), pp 14–17.


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