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佐藤眞『薩摩という「ならず者」がいた』

4160文字

『薩摩という「ならず者」がいた』という本のレビューのBlog記事、
面白かった!(^_^;)

2020.12.28 Monday

今年もいよいよ押し詰まった。ゲジゲジ日記の推奨本2020年ベスト1位を紹介しておこう。 『薩摩という「ならず者」がいた』(佐藤眞著, K&Kプレスより20年11月発行)である。(ちなみに2位は『人新世の「資本論」』、3位は『安倍・菅政権vs.検察庁)  

明治維新という近代革命の主役は薩長土肥といわれるが、それを牽引するエンジンとなったのは薩摩。燃料はカネ。徳川政権を打倒したのは、幕府と正面切って戦われた戦争によってである。 では幕府打倒戦争はいかにして準備されたのか?その「いかにして」を徹底したリアルによって解き明かしたのが本書である。

著者は言う。「幕府打倒戦争の筋肉はカネである」。そして「薩摩という『ならず者』が贋金造りをしなければ戦争はできなかった」と。言われてみればその通りだが、凡人の思考ではせいぜい裏工作でカネを工面したのだろうという程度にとどまる。というか、維新革命の大義に尽力した輝かしい英雄の物語は大好きであるが、ゼニの話はリアルに見ようとしない。

しかし考えてもみよ。いくら弱体化したとはいえ、300の藩を統治する徳川政権は数万人の兵力と、銃に大砲、軍艦をもっていたのである。勝つためには、幕府と同等以上の装備と兵力が必要だ。兵力すなわち給料であり、最新式銃と大砲、軍艦を購入するカネが必要だ。しかし、多くの藩は財政難に苦しんでいたのが実情である。

本書によれば、「そんなの簡単じゃん」と発想したのが薩摩藩主・斉彬の「贋金造り」アイデアであり、「お兄ちゃんが考えたことを俺がやり遂げてみせるばい」と実行したのが、弟・久光であった。 薩摩の国中から銅やすずをかき集め、せっせと贋金を造り、さらにマネーロンダリングで贋金をゼニに替え(その手法は本書をお読みいただきたい)、当時の最新鋭洋式銃に大砲、軍艦を購入しちゃったのである。(兵士の俸給もモチのロン)。

これほどの詐欺がばれなかったことにも驚くが、西郷隆盛や大久保利通らもしっかりかかわっていた。痛快である。 贋金造りだけでも十分ならず者であるが、真実は奥深い。

軍事国家としての薩摩はどのように形成されたか。話は維新を遡ること260年。関ヶ原の戦いで、手勢300名となり命からがら逃げかえった薩摩藩主・島津義弘は「5000の兵があれば勝てた」と悔しがった。しかし、最南端の中堅どころの藩が、それから260年の間に、いかにして戦時体制を構築・維持できたのか。

詳しくは本書をお読みいただくとして、徳川打倒という体制転覆を成就せしめんとするなら、長いスパンで相手を見据え、周到な準備を怠りなく実践したのが、薩摩という「ならず者」であった。 それを実証して見せたのが本書であるが、常識、定説、学者の権威をサッと吹き飛ばす軽やかな文体が魅力的だ。

前々から畏敬する著者は編集者でもあり、「ふかいことをやさしく書かなきゃダメなんです」という。 「誰が」「いかにして」――ものごとをリアルにとらえる視点を欠落させ、思考停止する「いま」を撃つ名著である。薦めたい。

引用おわり


面白かったので少し調べた。

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