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そこに昭和の歴史を見た、老舗旅館の重みと品格

湯河原、伊藤屋

湯河原温泉の良さといえば、おもてなしの目が届くこじんまりとした和風旅館の良さだろう。
それは、巨大なホテルを有する熱海温泉とは一線を画していて、いかにも通好みの宿だ。

「東京の奥座敷」として明治の時代から多くの文化人や政治家に愛されてきた。
「東京の奥座敷」って神奈川なのに生意気だ、と思ってるそこのあなた、
かの舛添元東京都知事だって言ってたんですよ。
奥多摩より近いって!

悲劇の側面としては、東京以外で唯一2.26事件の舞台となった歴史もある。
この伊藤屋の当時別館であった「光風荘」に元内大臣であった牧野伸顕伯爵が家族と宿泊しており、女中の機転ですんでのところで難を逃れたということだが、巡査1名が殉職されている。

江戸時代には、温泉が将軍家に献上されていたりと、

さらに遡れば、万葉集にも
「足柄の土肥の河内に出ずる湯の 世にもたよらに子ろが言はなくに」と詠まれている、万葉集で温泉を詠まれた唯一の場所なのだ。
意味は、湯河原温泉てばこんこんと湧いているのに、彼女がその温泉と同じようにあふれる気持ちをもってくれているのか、はっきり言ってくれないから僕不安で不安で…なんだ1200年前の東男もなんかなよなよしてんな。

という中々に歴史のある温泉なんですね。

1.アクセス

そんな東京からのアクセスは車でも特急列車でも新幹線でもロマンスカーでもほんのひと旅行という感じで来れちゃいます。
いえ、通勤してる人だっているくらい近いです。

2.部屋

伊藤屋は先の2.26事件の舞台の他にも、島崎藤村をはじめ徳大寺公爵、黒田清輝、円朝、有島武郎の定宿であったようです。

宿の駐車場に車を停め、玄関をくぐります。

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門柱の佇まいや行き届いた庭木の様子が、明治時代にタイムスリップしたようで、どこぞの伯爵家の別邸かという風情です。
ロビーは大正ロマンを思わせるおしゃれな空間でこちらで受付を済ます。

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私達は19番の本館2階の部屋に案内されます。

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この部屋は国登録有形文化財に指定されており、2.26事件の協力者がこの部屋に滞在し、牧野伯爵の動向を見張っていた部屋で、ちょうど道路向こうの光風荘を見据える位置になっている。
大正時代の建築の様子も残っていて、手作りの窓ガラスはゆがみのあるロールアウト方式で温かみも感じる。
夜半の強風で窓ガラスがカタカタと鳴る風情が、子供時代に帰ったような心持ちがして懐かしさも感じる。

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部屋は8畳間と次の間が6畳間で、部屋の周りを畳敷きの回り廊下で囲ってある空間も心地いい。

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畳が本物のい草の畳表なのもよい。
あのビニール畳はどうしても風合いがペタッとした感じで、座っていても体になじまないんですよね。

トイレはやや狭く、洗面所にはドライヤーとコップ。

冷蔵庫は電源が入っていて、飲み物が事前に準備されています。
瓶ビール2種類、GFチューハイ、冷酒、ソフトドリンクなどです。

部屋のお茶がティーパックでなく茶葉なのもおいしくて、お茶うけが旅館の隣で営業している小梅堂のきび餅で、これがのどにふわっと溶けてとてもおいしい。

フリーWiFiがあるが電波がちょっと弱いです。

3.風呂

この旅館の売りは何といっても貸し切りの家族風呂にあるでしょう。
露天と半露天風呂の2か所あり、入浴時間内で空いていれば何回でも入浴でき、やや熱めの湯温ですが、屋外の空気を感じながらのぼせることなく入浴できます。

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男女別の大浴場も、こじんまりとした旅館なので程よい広さで、真鶴の赤岩と青いタイルがいいアクセントです。こちらは24時間入浴可能

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泉質はナトリウム・カルシウム・塩化物・硫酸塩泉
(温泉質名:含石膏弱食塩泉)で
この硫酸塩泉というのが肌の蘇生効果が高くて湯上り後もしっとりしていてほんとにお勧めです。
源泉温度は65.5℃ でお風呂は全て源泉かけ流し、温度調節のため循環併用、加水というちょっと複雑系な掛流しになってます。
大浴場と半露天風呂のみ女性用化粧品とシャワーキャップがあり、ドライヤーは大浴場と部屋にあります。

4.夕食

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食事は2名までが部屋食、それ以上が食事処のようです。
食前酒は湯河原らしく梅酒から、黒糖の風味が効いてます。
ツブ貝、海老、大山地鶏、イカと、タンパク質系と季節の菜花の前菜から始まる。それぞれに味付けが凝っていて前菜なのに食べ応えがあって日本酒が進んじゃいます。相方は生ビールをチョイス。

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お造りは四点盛とお品書きにありますが、実際は五点入ってました。
マグロ、ホタテ、甘エビ、ハマチの下に太刀魚だったでしょうか、お造りとしてのボリュームもあって、さすが海沿いの旅館です。

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鍋物が浅利というのが、なんと斬新で気が利いているのでしょう。
浅利の繊細で優しいスープが主張の少ない具材と相まって、なんとも言えない滋味がある。(ネギと水菜を食べてしまってます)

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焼き物は鰆の粕漬けの杉板焼き
寒鰆は脂の乗った冬こそが漁獲量は減るがおいしい。粕漬けされた鰆が香りもよく適度に弾力もあって、そろそろご飯が欲しくなる。

蓋物は蓮根饅頭の蟹餡かけ
蓮根が歯ざわりを残したものとマッシュしたものが混ざり合って、絶妙な口触りだ。

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揚げ物はゆり根真薯と袱紗揚げ
パリッとした食感とねっとりとしたゆり根がいいハーモニーで焼き塩で頂く

最後の酢の物が相州牛のモモのたたきで、さっぱりとしておいしかった。

ご飯は多分コシヒカリのようで、もっちりとしてほのかに甘みも感じる。
赤だしも優しい味わいで、そこに添えられた自家製の漬物のおいしいこと、
すべてが和食の理にかなったもので、最後までしつこい料理は出ず、塩分などを控えた優しい味付けがとても好ましい。

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デザートのみかんゼリー寄せまで美味しくいただきました。

5.朝食

旅館に泊まった本当の真価は朝食にあるのではないかと感じるほど、満足感の高い朝食だった。

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手作りの卵焼き、白和え、手作りのポテトサラダ、山芋のとろろの下にはマグロのブツが隠れている。
昨晩の煮物が蓮根饅頭だったので、朝は大根や厚揚げ、ちくわなどが素朴に炊かれている。このメリハリがすばらしい。
アジの干物も新鮮で焼き加減も上々です。
漬物は乳酸発酵が程よく、ご飯がどんどん進んじゃいます。
お仕着せではない手作り感にあふれていて、さぞや厨房は忙しいのではとも感じる。

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昨晩に引き続き朝も満腹に食べちゃって、また太っちゃうなあ。
ごちそうさまでした。

6まとめ

客室13室というのは、おもてなしする上で程よい部屋数なのでしょう。
磨き上げられた床や窓、お客様に程よく寄り添うスタッフさんの心地よさ。

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ホテルのほっとかれ感もいいし、旅館の温かさもどちらもその時々で、心地いいものだ。
自身がこういう贅沢をしたい。こういう温泉に入りたい、食事は豪華に、いやいや、バイキングで好きなものだけ食べたい。飲み放題だったら更にいい。いえいえ、極めつけの1本の日本酒をしみじみと楽しみたい。

宿に対する思いは一筋縄ではいかない。
まだまだいろいろなバージョンを楽しみたいから。

いつか年を取って、定宿だと言える宿を見つけられたら、それこそが至福かもしれない。その日まで、まだまだ日本全国いろいろな旅館を巡り感じ尽くしたい。

*部屋:★★★★★ 歴史を感じるし掃除も行き届いていて広い
*温泉:★★★★★ 貸切風呂はリラックス感半端ないです
*食事:★★★★★ 繊細な味付けとタイミングがよくグッドです
*接客:★★★★★ どのスタッフさんも感じがよく心地よいです
*追記:宿泊者には無料で湯河原梅林の入園券がいただけます

*宿の写真は一部HPからお借りしました

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