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冷蔵庫

夕方、家に帰って隣の部屋に行くと、お姉さんがいた。

いたというか、床で伸びていた。私が来るなりむくりと起き上がって、一瞬立ち眩み

「んあー、、来てたんね」

と眠たげな顔を向ける。

「お姉さん、シャワー浴びましたか?」

「んにゃ、」

「さっきよろめきましたよね? 晩ご飯食べたんですか?」

「えー、、、え――、、、」

これは......食べているはずがない。お姉さんはうちの銀に似て、答えをはぐらかそうと目を逸らしている。

「食べてないですよね?」

「はい......」

このお姉さん、ひょっとして......?

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ご飯を作ろう。私もこれからだし。

衝動的に、そんな考えが頭をよぎった。

「お姉さん、いまからご飯作りますから、その間にシャワー浴びてきてください」

「え、、、、いや今日は別に」

「いいからはやく!」

「ふぇ、、、」

そう言ってお姉さんを脱衣所へ押し込み、私はあたりを見回した。

段ボールと座椅子。

段ボールの上には紙の山とパソコン。

壁の本棚には、よくわからない本がたくさん。

謎の水筒と液体、真っ黒い袋と、たくさんのカメラ。カーテンはない。

カーテンはない。

「冷蔵庫の食材ちょっともらいますねー?」

「あー、いいよ好きに使って」

「じゃ、開けますねー」

そう言って開けた冷蔵庫では、箱の山が冷蔵庫の一段を占領し、あるじ然とした顔でこちらをみていた。赤、青、黄、紫、緑、黒の、掌に載るちいさな紙箱の小山。


あ、このお姉さん、ダメだわ。

数学の難しい問題を、もやもやしながら解ききったときと似た気分に襲われる。お姉さんは外で会うときは服を着崩してたり、写真撮ってたりしててかっこいい。どんな人なのか気になってたし、生活力ありそうとか思っていた。いや逆にダメダメでも、かわいi...... まさかほんとうにダメダメだったとはね。


ご飯、作るか。大きな猫ちゃんのために―――

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「お姉さん?」

「んー?」

「カーテンと、机と椅子、買いに行きません?」

「え、めんどくs」

「そっちのがかわいいですよ?」

「そ、そうかな...?」

「そうですよ!こんどの日曜に線路沿いのイオンいきましょ?」

「うーん......そうするか......」

「やったぁ!お姉さんとデートだぁ~」

「デート言わない、あ、皿洗いぐらいやるよ」

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明日もまた、ご飯つくろうかな

「じゃあお姉さん!今日はここで寝ましょー?」

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