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南の島で野獣先輩と出会う

昼前に宿をチェックアウトし、徒歩で島を南下していく。

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クート島は南に行くほどローカル色を増していき、ジャングルやマングローブといった南国の原風景が楽しめるようになる。

南部最大の特徴は民家で飼われている犬で、北部と比べて凶暴性が格段に増し、こちらの姿を見るなり目前まで接近してきてキバ剥き出しで威嚇してくる。

バカ犬は放し飼いされていることもあって初見はビビッてしまうが、よく見ると奴らは吠えながら少しずつ後退していくので、実は奴らの方がビビッていたりする。
バカ犬に絡まれてもまったく無視してOKだ。威嚇し返してやれば走って逃げていく。

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また、時には明らかに家畜ではないタイプの牛と遭遇することがある。

写真ではわかりづらいが、超巨大なツノを持っている。バカ犬と違って狙われたら命はない。
追われても逃げ切れるであろうバイク勢は口笛吹きながら牛の側を通っていくが、私のような徒歩移動勢は牛の側を通過するたびに生きた心地がしない。

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牛に注意をしながら次なる宿に向かう途中で、レストランを発見する。

外に出ているメニューを見ると、なんとピザが500円程度で食べられるではないか。日本だとMサイズでも軽く1500円はする。
日本基準だと破格もいいとこだ。ひょっとしたらタイで最も物価の安さを感じられる物かもしれない。

ここでお昼ごはんにしようかと思ったが、残念ながら店主が留守にしていた。

立ち去ろうとした時、タイミングよくバイクに股がった店主が帰ってきた。
「ごめんよー、買い出しに行ってたんだ。ちょい待ってな」と若き店主は店の奥へ引っ込む。

この店主、めっちゃ野獣先輩にそっくりである。もし性格がカスだったら日本のホモビ男優にそっくりだと言って意地悪してやろう。

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一番お安いピザを注文。焼き上がるまでにかなり時間を要するが、この島に滞在していて急ぐ用事なんてない。
日本のピザと違い、生地がサクサクしている。油っこさもないし、個人的にはこっちの方が好み。

店主は常にニコニコしており、非常に愛想が良い。野獣先輩は後輩に睡眠薬を飲ませて犯すクズだが、クート島の野獣先輩は人柄がよく、天使のような人だ。

腹もふくれたところで、再び宿を目指す。
地図では野獣ピザ屋のすぐ近くなのだが、どう探しても見つからない。

ガチで30分もさ迷い、ようやく宿の場所を突き止めた。

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このローカル感満載の集落が宿なのだ。

正しく言えば、集落の中に一軒だけゲストハウスがあるのだが、景色に溶け込みすぎて気づけない。
集落の住人も、不思議なくらい外人の存在を気にかけない。
外人相手にはなんらかのリアクションを示してもいいはずなのだが、私のことが見えてないかのようにガン無視される。

レセプションっぽい所を突き止め、掃除していたおばあちゃんに声をかける。


「ババア、ここがレセプションか?」
「ぁお???????ぁ??????」


おばあちゃんにはまったく英語が通じない。おばあちゃんは折り畳み式のケータイを取り出すとオーナーに電話し始めた。年寄りがガラケー使うのは日本だけじゃなかったのか。
「あひぇ、」
と、おばあちゃんからケータイを渡される。画面は通話中になっており、これでオーナーと話せということらしい。

外国語で電話という人生初体験に動揺し、ケータイを耳に当てて数秒間硬直した。ボディランゲージによるフォローがなくなると、純粋に英語力を試される。義務教育以下の英語力しかない自分に円滑なコミュニケーションなんて無理だ。

「ハロー?」とオーナーが3回くらいくりかえす。
「ハロー!マイネーミズ、ワタアメ!アイムフロムジャパン!トゥナイトステイ!」
「オ、オウ…オーケー」

一方的に自分の情報を伝え、なんとか場をしのいだ。
おばあちゃんにケータイを返し、部屋に入れてもらう。

部屋は異常に高湿度で温度が高い。クーラーはなく、ファンはついてるが高湿高温ではまったく意味がない。こういう部屋にこそクーラーが必要だ。壁がライトグリーンで、いかにも東南アジアという雰囲気。もうちょい落ち着いた色に塗ればいいのにと思うのだが、彼らにとってはこれが一番落ち着く色なのだろうか。

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窓からは集落で暮らす人々が見える。彼らとの物理的距離は近いが、彼らの視界に私の姿は入らず、完全にコミュニケーションが遮断されているので、宿泊中にまったく触れあいはなかった。


もし適度なコミュニケーションが取れたらウルルン滞在記っぽくなって記事のネタになるのだが、恐ろしいほどシカトこかれる。
集落にミニマートがあるのだが、店員は常に床の上に寝転がってくつろいでおり、客がうろついててもまったく気にかけない。というかこちらの存在を認識してない気さえする。

このゲストハウスで特にビビッたのはシャワールームで、床に穴丸いが空いており、水がダイレクトに川へと流されていく仕様だった。
更にシャワールームの中心には、水が貯まった高さ150センチくらいの謎の巨大バケツがある。用途は不明。浴槽というわけではなさそうだ。

部屋に荷物を置いてシャワーを浴びた直後、部屋のドアがノックされた。
オーナーの嫁が訪ねてきて「どっかで予約したか?」と聞かれた。

agodaでの予約画面を見せると、嫁は納得して「ゆっくりしてってや」とドアを閉めた。

そしてドアの向こうから「agodaやんけ!!何適当抜かしとんねんババア!!!」とおばあちゃんを怒鳴る声が聞こえてきた…。
おばあちゃんは何かを誤解して、間違った情報をオーナー嫁に伝えてしまったらしい。

コワーと思いつつ、ベッドの上でくつろぐも、高温多湿過ぎてまったくくつろげない。
息苦しさを覚えるほどで、たまらず外に出て宿の周囲を散策に出た。
外は糞暑いが部屋よりは快適。

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田舎な南部は開発が遅れており、労働階級者が暮らすあばら屋が目につく。
(こういう写真を面白半分で撮るのはあまり良い趣味ではないが)


人気のない道を進むと、一軒のカフェを見つけた。

白人のおじいさんが経営するカフェで、店内はめっちゃ涼しく、生き返った心地。タイ人の奥さんとハーフの娘さんがおり、二人とも超美人。

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ラッシーとマンゴーアイスをいただく。

おじいさんはオーストラリア出身で、自分なりにこの島の観光開発に取り組んでいるらしい。カフェ周辺にはおっさんオリジナルのウォーキングコースが整備されていた。

南の島で若妻と美人な娘とともに、カフェをやりながらのんびりと暮らす……これ以上に羨ましい老後の生活があるのだろうか。

将来はこのおじいさんみたいな生き方したいな、と思いながら私はカフェを出た。

夕方になって宿に帰ると、オーナーの男が帰還していた。
集落の住民と違い、常に笑顔で人柄の良い男だ。
「やあジャップ、この島にはどんくらいいるんだい?」
「あと2日くらいかな」
「そうか、ちょい待ってな」

オーナーはクート島の地図を用意し、オススメスポットに丸印をつけ出した。

「このビーチは穴場だ、飯を食うならここがいい……」

オーナーは、なんの得があってこんなことをしてくれてるのだろうか。
すぐ国に帰るし、この先二度と来訪れないかもしれない観光客のためにこんなに親切にしてくれるなんて。

ピザ屋の野獣先輩といい、カフェをやってるおじいさんといい、この宿のオーナーといい、ホスピタリティ溢れ過ぎている人が多い。
中級以上のホテルやちゃんとしたレストランでは味わえないホスピタリティ。
豊かなこの時代にあえてバックパッカーをやる人がいるのも納得だ。私はこの先、どんなに裕福になったとしても、バックパッカー旅行をするだろう。
オーナーとの会話の中、そう確信した。


夜になるとやや涼しくなり、過ごしやすくなった。
トイレでうんこをして、流そうとした時、断水しているのに気づいた。何度レバーを引いても水が流れていかない。
シャワーの水も出なかった。


この宿は夜になると断水されるようだ。同時に、シャワールームにある謎の水入り巨大バケツの正体が判明。これは夜に使う生活用水だったのだ。

なんてワイルドな環境なんだ。この発展途上の環境で過ごしている感覚。愉しすぎて震える。

もっと地方を旅すればこれ以上にワイルドな経験をできるんだろうな、と思うと、バンコクをメインに旅行プランを組んだことを後悔した。もっとワケわからん田舎もプランに組むべきだった。


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