最後の秘境でハイテンションババアと出会う
マーク島最後の朝。ついにこの島とお別れの日が来た。
今朝もマーク島はクソ暑い。普通、朝から昼にかけてじわじわと暑くなっていくものだが、ここは早朝から気温がフルスロットル。この暑さがなければ最高なのだが。
大変名残惜しいが、美少女なお孫さんと猫に別れを告げ、レセプションを後にした。
「サヨナラー!!!」
宿の敷地を出ようとした時、日本語でそう叫ぶ声が聞こえた。
お孫さんが私に大きく手を振っていた。
まるで映画のワンシーン。サヨナラが日本語というのがミソ。
彼女はマーク島で数少ないスマホ所持者。Googleかなんかでわざわざ日本語で挨拶の言葉を勉強してくれたのだろう。
私は思わず泣いて、サヨナラー!!!と絶叫して手を振り返した。
彼女はきっと素敵な大人の女性に成長することだろう。もし私がもう少し若ければ、確実に恋をしていたはず。
感動の出発となったが、この日の暑さはこの3日間でも一番キツく、すぐにバテてしまった。
凄まじい発汗量。頭がフラフラし、吐き気がする。
だんだん視界が真っ白になっていき、周囲の音がまったく聞こえなくなる。耳に詰め物をしたような感覚だ。
これはヤバい。
数秒後に意識が飛ぶと直感し、やや日陰になっているヤシの木の下で仰向けに倒れた。
横になるとスッと気分が楽になり、視界が晴れ、耳の詰め物も取れた。
しかし手足の感覚が失われ、立ち上がることができない。しばらくそのまま休むことにした。
ココナッツが落下して頭を潰されたら確実に死だが、まったく身動きできないので落ちてこないことを祈るしかなかった。
そうしているうちにフェリー出港の時間が迫り、体にムチを打ってフラフラと港へ向かった。冷房が効いた船内で水分補給しながら身体を休めていると、みるみる元気を取り戻していった。
クート島に到着すると、大勢のピックアップソンテウ(トラック型のタクシー)が並んでいた。
港から宿までかなりの距離があり、ソンテウで宿に送ってもらうことになっている。
これもboon siriのサービスの一つ。片道3000円にバス、フェリー、そして宿までの送迎も含まれているのだからどうやって利益を出しているのかマジで謎。
スタッフのおっさんに宿の名前を伝え、スマホで宿の所在地と地図を見せる。
おっさんは「???どこだここ???」と困惑した様子で、ソンテウドライバーに一人ずつ「ここ知ってるか?」と声をかけて回った。
ドライバーたちも「なんやここ?」といったリアクション。
私が泊まるゲストハウスは島の西南側にある。大半の旅行者はミドルクラス以上のホテルか集中する西北側へ向かうため、西南行きのソンテウはほとんど無かった。
「ちょっと待ってろ」とおっさんに言われて放置される。その間にほぼすべてのソンテウが発車してしまった。
マーク島と違い、クート島は広い。万が一自力での移動になってしまったら大変だ。
本当に乗せてくれるのか?不安で半泣きになっていると、ここで待つように言ったおっさんがいつの間にかいなくなってしまった。
これはヤバいかもしれんと思い、他のおっさんに声をかけると、さっきのおっさんと同じく困ったような顔をし、最後に残ったソンテウのドライバーに私を連れていくよう相談しはじめた。
ドライバーは快く承諾し、私を乗せてくれた。ありがとう。
他の旅行者たちとぎゅうぎゅう詰めになりながら出発。
クート島はマーク島と違ってジャングルに覆われている。猛獣や好戦的な裸族が潜んでいてもおかしくない環境。
もし軽装備で歩いたら、獲物のニオイを嗅ぎ付けた猛獣と裸族の戦士が出現して私を巡って戦い、その隙にダチョウ的な巨大な鳥がクチバシで私の首の襟を挟んで一瞬の内にジャングルの奥地へと連れ去られてしまうだろう。
クート島怖い。秘境というと聞こえは良いが、実態は何が起きるかわからない厳しい大自然である。マーク島は人間と平和ボケした犬しかいなかったのでどこにいても安全だったが、クート島はそんな甘い所じゃない。気を引きしめなければ。
ビビりながら30分ほどソンテウに揺られたのち、宿に到着した。
島で最安値の一泊1200円ほどのゲストハウス。予約サイトで見た写真ではクソ汚い部屋という印象だったが、実際は清潔感十分。シャワールームにヤモリが出没するが、それはマーク島でもう慣れっこである。クーラー付きなのが好印象。ガンガン冷えるので快適。
この宿も家族経営。オーナーはおばさん姉妹で、二人に加えて素っ気なく愛想もないジャイ子みたいな娘さんもいる。
そういや口コミサイトでこのジャイ子の態度が最悪と悪口書かれていたな。
まあ、一泊1200円に接客の質まで求めるのもな。クーラー付いて1200円はコスパ最高だよ。
まだ体調が優れず頭がフラフラするが、せっかく「最後の秘境」に到達したのに部屋で安静にしてるなんて勿体ない。
フラつきながらもビーチを目指しつつ、散策を開始した。
メインビーチの一つ、クロンチャオビーチまで徒歩15分ほど。この島はマーク島ほど暑くなく、快適にお散歩できる。旅行者の数も多く、バイカーがたくさん走っている。小学生の軍団が歩いてたりするので、この辺りは徒歩で移動しても危険はなさそうだ。
途中立ち寄ったミニマートで、サンダルが80バーツで売ってるのを発見。なんだ、安く買えるじゃん。カオサン価格の1/10だよ。即購入して履いてみた。丈夫で履き心地が良い。
ミニマートは島国価格なのか、バンコクより20%ほど物価が高い。20%なら許容範囲だ。日本だとホテルにあるというだけで自販機の飲み物が50%以上値上がりすることも珍しくない。
品揃えも豊富で、日用品からカップ麺まで何でもある。必要な物があればここに来れば手に入りそうだ。
ほどなくしてクロンチャオビーチに到着。駐輪場にたくさんのバイクが停まっており、そこそこ賑わっていた。
客の9割は白人。中国人にはまだ知名度が低いようだ。
もし中国人にこの島の存在を知られたら彼らが大挙するようになり、中国資本で観光開発が猛スピードで進むだろう。
観光しやすくなるのは良いが、そうなるともう秘境でなくなってしまう。
島内には「セブンイレブン反対」看板があり、島としては過度な開発はしたくない意向らしい。
セブンくらいならあれば便利だと思うが、勢いの強いセブンに客を取られたくないという想いもあるのだろう。
それに、バンコクでのセブン乱立っぷりを見ると、一軒この島に進出したら怒濤の勢いで増殖して景観が損なわれる心配もある。
そうなってしまうくらいなら、セブンなんてないほうがいい。
そんなことを思いながら、新品のサンダルでビーチの砂浜を踏んだ。
クート島の海も最高。体調は依然として悪いが二時間も遊んでしまった。
疲れたのと脱水症状で死にそうになってるので、どっかでごはんを食べよう。
うまそうな飯屋はないかなと探す。良さげな飯屋はいっぱいあるのだが、表に出ているメニューの値段を見るにどこもクソ高い。白人様向けの価格だ。
貧乏なジャップはミニマートでカップ麺でも買って食えやということなのだろうか。そんなことを考えながら飯屋を探していると、ある食堂からババアが出てきてこちらに駆け寄ってきた。
ババア「あら、お兄さん!めっちゃハンサムやね!!!どこから来たんや???」
私「に、ニッポン(なんだこのババア…)」
ババア「ニッポン!!私ニッポン大好きなんよ!ニッポンの言葉4つ知ってるで!コンニチハ、アリガトウ、アイシテル。そして…リコン!!ギャハハハハハ!!!!」
ダンディ坂野っぽいネタを披露し、ババアは一人大爆笑しだした。ヤバいぞこのババア。このハイテンションっぷり、クスリやってるんじゃないか。
ババア「ハンサム、おなか空いてない??うちで食べていきーよ!めっちゃうまいで!」
ババアに強引に腕を引かれ、私は食堂に連れ込まれた。この強引な客引き、絶対ボられるに違いない。
店には「Vientiane food」と書かれた旗が立っている。ベトナム?いや、ビエンチャンって書いてるっぽい。ラオス料理の店ということなのか?
ババアの娘さんがメニューと木の実が盛られたカゴを持ってくる。木の実にはハエが集っており不衛生極まりない。
娘さんに「これおいしいよ、食べてみ」とすすめられる。
一個食べたら100バーツくらい取られたりしないよな、と警戒しながらハエの餌と化している木の実を1個いただく。クソまずい。
メニューを開くとどれもこれも値段が高い。ババアは春雨ヌードルをオススメしてきた。日本円で600円くらい。
バンコクでは1/3以下の値段で食えるのに。いくらなんでも高過ぎねえか。
それにタイの春雨ヌードルは好きじゃない。バンコクでも食べたが、春雨がジャスミンっぽい香りがして不快だった。
ババア「うちの春雨ヌードルはね、チキンがめっちゃうまいんよ!チキン好きか?チキン好きなら食って損はないで!」
他の料理はもっと高かったので、私は渋々了承した。最悪、ヌードルは残してスープだけいただこう。
10分ほど待つと、春雨ヌードルが着弾した。超巨大な器に、3人前くらいのヌードルと、チキンが6本も入っている。
大ボリューム過ぎて笑ってしまった。これなら量を減らして値段も安くしてくれたらいいのに。
ババアと娘さんの絡みが鬱陶しくて写真を撮る暇がなかった。二郎系春雨ヌードルをイメージしてくれればいい。
まずスープをいただく。超うまい。あっさりしているが濃厚なチキンの出汁が最高。
続いて麺をいただく。ジャスミン臭が気になるが、そこまでキツくはない。
チキンも柔らかくてうまし。
ババア「どや?兄さん、うまい?うまいか?」
私「うまい!うまいぞババア、世界一のヌードルだ!」
これで麺のジャスミン臭がなければ最強だ。日本人の味覚にも合う最高のスープ。チキン6本のボリューム感も素晴らしい。
大満足で食事を終えると、ババアは「マッサはどや?一時間400バーツ(1440円)やで」と今度はマッサージをすすめてきた。
一時間400バーツ!?カオサンではその半額でマッサージを受けられたぞ。
安いとこなら一時間100バーツの店だってあるのに!ボッたくりもいいとこだ。
これは流石に拒否したが、ババアは引き下がらない。
「こんな感じのマッサージやで」と、勝手に私の首や肩を揉みだした。
これがまた的確にツボをついた最高のテクニックで、私は思わず400バーツを支払って一時間楽しんでしまった。
お値段はやや高いが、お値段以上のクオリティで食事とマッサージを楽しめる。ババアは鬱陶しいが、金があれば毎日来たくなる店だ。
Googleマップにも載っていない穴場の店。目印はVientiane foodの旗だ。
帰り、クロンチャオビーチで夕日を楽しむ。リア充客ばっかで嫌になるぜ。
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