カオスの残り香
ヤワラートの第一印象は「クサい」だった。
バンコク中心部は道端に積まれた生ゴミのニオイが鼻についたが、ここでのニオイはまた別種。
飯屋に近づくほど、ニオイはきつくなる。これが海外で提供される中華料理のニオイなのか?クサイし値段も高いしで、ここで食事するのは諦めた。
「お兄さん、お兄さん」
歩いてると、60代くらいのババアに声をかけられた。
「200バーツでブンブン、どや?」
なんと、このババアは街娼だったのだ。値段の安さからして、このババアが相手をしてくれるようだった。
私は即逃げて、別の道に入った。あんな年寄りが街娼やってるとは。
すごい経験をしたもんだと心臓バクバクさせてると、次から次へとお年寄りから声をかけられた。
遠くから怒鳴りながらアピールしてくるババア、腕を掴んで離さないお婆さん……みんな、格安で身体を売っている人たちだ。だいたい、この手のババアたちは単なる仲介人で、若い女の子を紹介してくれるイメージがあるのだが、ヤワラートのババアたちは違う。
カオサン近くの溜まり場では、ヤバい雰囲気の街娼はいても年齢層は若かった。しかしヤワラートの街娼は総じてババア。
みんな、ヤワラートの全盛期では日本人相手に稼いでいたのだろう。まさか年を食ってから街娼はじめる人はそんなに居るまい。
老娼婦たちから逃げながらヤワラートを抜けると、見慣れたバンコクの町並みがあった。
軍事政権に移行してから、ヤワラートはだいぶ浄化が進んだという。
00年代のヤワラートの写真と比べると、かなり景観がスッキリしている。
だが、浄化されてもなお、初めて訪れる者に圧倒的なカオスを見せつけてくれる。初見で退屈さを感じる者はいないだろう。
この町が持つパワーに惹かれたのか、私はこれからヤワラートには何度も足を運ぶことになる。
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